城下町での戦闘
アストロンから逃げるべきか留まるべきか悩んでいた俺はついつい先輩に手を引っ張られるままに動いてしまう。アストロンがさらに表情を険しくしながら追いかけてくる。
さすがに大通りでそこまで目立つ行動は出来ないだろうが……。
大通りに出ると町のはずれとは違い、多くの人がいる。チラチラと俺達を見て、制服を着た子どもが今の時間に学外にいることに首を傾げる人もいる。
「あれって王子じゃない?」
「勇者様?」
そんなことを呟いている声も聞こえる。めっちゃ身バレしてるんだが!!
「この辺りで良いか。」
先輩が俺の手を離す。逃げるの手伝ってくれてるのかと思ったけど、ここで手を離すのか。アストロン全然撒けてないんですが。
振り返ればアストロンと目があった。その瞬間アストロンはにっこりと、音が聞こえそうなレベルで満面の笑みを浮かべた。
多分、すごく怒っていらっしゃる。どうしよう。逃げたから怒ってるのか?いやでも、婚約云々の話は俺は聞きたくないわけで……!
「これであっちは良いな。」
また先輩がよく分からないことを言った。
この人は何がしたいんだろう。こんなよく分からない行動をする人にはあまり見えないんだけど。そう疑問に思っていると、先輩がアストロンの方を見た。
「俺はお前が嫌いだ。」
ええー?!どうしたんですか先輩!!
先輩そんな悪態つくようなキャラでしたっけ?そもそもアストロンとそんなに関りありましたっけ?
回復室でアストロンと会ってはいるだろうが、ほとんど会話していない気がするんだが……。
それとも俺が知らないところで何か?
「僕はそう言われるほど、あなたを知らないし、あなたも僕を知らないでしょう。」
だよな?
アストロンが怪訝そうに、そして不愉快そうに眉をしかめて先輩に向き直る。そのピリッとした空気に、町の人たちがそっと移動する。先輩とアストロンの間から、人がいないくなり、周りから見守る形になる。まあ、喧嘩を始めそうな空気だとこういう行動になるよな。
というか俺は訳が分からないんだが。特に先輩の言動の意味が分からない。先輩を見上げると先輩も俺を見た。けれど、前髪が邪魔でその瞳ははっきりとは見えない。
「俺も別に一般人を巻き込みたいわけじゃないんだ。」
先輩が前髪をかきあげる。
その瞬間、
その瞳が、
その顔が、
その声が、
知っているものだったと理解した。
(認識阻害?!)
考えるより前に後ろに飛び退く。そして飛び退いた俺の足が地面につく寸前
「「!!?」」
周りにいた町の人たちが一斉に頭を抱えてその場にうずくまった。
「へえ?オーラへの耐性をつけてきたのか。」
先輩はアストロンを見て意外そうな表情をした。
「安心するといい。そこまでオーラを強くはしない。ここにいる町の人間には証人になった貰わなきゃいけないからな。」
とりあえず俺は魔法で出来た剣を取り出し、先輩を見ながらアストロンの方に近づいた。
「せ……いや……あなたが魔王だったんですか。」
悪のオーラを使っている時点でそれは確定と言って良いだろう。町の人たちはオーラの影響でうずくまってしまっているのだ。
「ああ。魔王だって、どこかの生き物。それは分かっていただろう?」
分かってはいた。分かってはいたけど、魔王の顔に見覚えは無かった。
だから知り合いに魔王はいないと思っていた。
勇者も聖女も魔王の悪のオーラの影響は受けない。
けれど普通に攻撃はくらうし、魔法だって効くのだ。
俺は魔王の認識阻害の魔法に気づけなかった。
「アッキー。とりあえず、話は後でだね。」
「ああ。」
アストロンと短い会話をする。
感情がぐちゃぐちゃとか、そんなことを言っている場合じゃない。
今はこの城下町に現れた魔王をどうにかしなければいけない。
「さっきも言った通り、俺はお前が嫌いだよ。アストロン王子。」
「そうだね。僕もお前のことは嫌いだよ。」
アストロンも先輩のことはあまり知らないだろうが、魔王のことは知っている。
俺は魔王がアストロンの名前を呼んだことに少し驚いたが、アストロンは淡々と魔王の言葉に返事をした。
この状況じゃ、魔王に仮死状態になる実験に参加してくださいなんて言えないな……。というか、町の人が周りにたくさんいる状態じゃどっちにしろそんなことは言えないが。
ていうか、フルパワーで戦うわけにもいかないな?魔王はさっき一般人を巻き込みたいわけじゃないとか、証人になってもらわなきゃいけないとか言っていた。それだったら、魔王もフルパワーでの戦いはしづらいはずだが……。
今回は、アストロンがオーラの影響を受けていない。
(アキレアがいないから魔王を倒すことはできないけれど)
俺とアストロンで魔王を追い詰めれば、魔王は撤退するはずだ。
そう思って俺は剣を構えた。
気になるかも?良いかも?と思っていただけたらブックマーク、評価や感想をいただけると嬉しいです!
次回もお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いします。




