回復室の先輩
「勇者の君でもそんな風に泣くことがあるんだね。」
「うっ……。」
「あ、別に責めてるわけじゃない。俺は先輩なんだし、俺の前では全然泣いて良いよ。」
「うう……。」
先輩は俺の横で俺と同じように膝を抱えてこんで座り、俺の顔を覗き込んだ。
「それで、誰が君を泣かせたのか、聞いても良い?」
既に聞いてるじゃないですか……。
何となく、誰かに話したい気分だった。けれどアキレアもホワイトレースも、ライも距離が近すぎるし、今回はアストロンは以ての外だ。親にこんな相談をするのも気が引ける。クラスメイトも気まずい。そうなると、学校でたまに会うくらいの距離感の先輩は、最適の相談相手に思えた。しかも、年上なので少し頼ってもいいような気もしてくる。
「俺、好きな人がいるんです。」
「!!」
「……先輩?」
なんか今、微妙に不自然に動きが止まりませんでしたか?
「なんでもないよ?続けて。」
「それでその、好きな人にも好きって言ってもらえて。」
「……へぇ?」
「でも俺、色々あって好きな人に好きってこたえられなくて」
そしたら
「そしたら、好きな人が他の人と婚約するって話になって……!!」
あ、ダメだ。また涙があふれてしまう。
「君の好きな人って、あの王子様のことかな?」
「っ!!」
そんなに分かりやすいのか。言い当てられて顔が赤くなってしまう。
「やっぱり、面白くないな。」
「え?」
先輩が何か言ったような気がして聞き返すが、笑ってごまかされてしまった。
「そう言えば先輩、どうしてここに?今の時間って学校ですよね。」
「そう言う君こそ、どうしてここに?」
「うっ……。」
頭が真っ白になってアキレア達から必死に逃げてきました……。気まずい理由なので思わず顔をそらす。
「ふふ。別に答えなくていい。」
先輩は俺の反応を見て可笑しそうに笑った。それから真面目な声で言った。
「俺がここに来た理由。君を追いかけてきたって言ったらどうする?」
「へ?」
えっと、それは俺を心配してくれたってことか?
「ありがとうございます……?」
俺の返答に先輩は少しキョトンとしてから笑った。
「はは。お前らしい答えだ。」
(……ん?)
先輩の言葉に何か違和感を感じて、先輩を見上げる。だけど長い前髪のせいでまともに目を見ることができない。
「先ぱ」
「アッキー!!」
「!!」
口を開きかけたところで俺を呼ぶ声に驚く。
ま、まだ色々とぐちゃぐちゃしている状態でアストロンに会うわけには……!!
「町の中にも警備隊……しかも最上級の回復魔法が使える人とかいましたよね。」
走り出すべきか、それともここまで来てくれたアストロンに向き合うべきか。
葛藤しながら二の足を踏む俺。意外にも声を発したのは先輩だった。先輩は大きな声で、アストロンに向かって言ったのだ。
その言葉に、元々寄せられていたアストロンの眉がさらに寄せられる。うん。俺にも先輩の言葉の意味は分からない。
分からないけれど、先輩は俺の手首をつかむと大通りに向かって走り出した。
先輩の様子がおかしい?……仕様です。
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