膝を抱える
とても勇者には見えないね。
ブックマークありがとうございます!!
ぐるぐると思考が回っている。呼吸が浅くなっているのが分かるから、どうにか深く、息をするように心がける。冷静な自分が授業、始まっちゃうと呟いている。
だけど、こんな状態で授業に……皆の前に出れるわけがない。
(今の俺は、どっちかというとフリージアだ。)
勇者アキレアは、町のはずれで身を隠すように蹲ったりしない。こんな……
「個人的な感情にぐちゃぐちゃにされるなんて……」
こんなの勇者アキレアじゃない!!
ホワイトレースがアキレアに
「聖女様、どうか王子と婚約していただけませんか?」
と言っていた。
それはつまり、この場合はアキレアにアストロンと婚約しろと言っているのだ。ホワイトレースはアキレアととても仲が良い。親友にすごくいい縁談を持ってきたという解釈もできる。
そうだとして、ホワイトレースが独断でアキレアにアストロンとの婚約を提案することは無いだろう。立場的にも旅の仲間的にもホワイトレーストアストロンの仲は悪くない。つまり、何らかの形ですでにアストロンはこの話を知っているはずだ。
(そう言えばアストロンも何か俺に言おうとしていたな……。)
さっき男子生徒に詰め寄られたことから考えても、今日学校の様子がおかしいのはこの、アキレアとアストロンの婚約についての話のせいだろう。
なんで比較的当事者である俺より、一般生徒の皆さんの方が情報が早いんですかね。
いや、問題はそこじゃない。
「俺のことが好きって……言ってたのに。」
そうだ。問題はこれに尽きる。
アストロンは俺が好きだと言ったのだ。
性別も何も関係なく、俺が好きだと。唇まで奪いやがった。
けれど、そんなアストロンが、アキレアと婚約する?
本当は入れ替わっているというのは、俺とアキレアしか知らない。
つまりつまり
「顔が同じだったら、どっちでもよかったの?」
そういうことだ。
アストロンはいつだって、秘密が言えない俺の隣にいてくれて、寄り添ってくれて、踊ってくれて、考えてくれた。だから俺は、アストロンの好きという言葉をそのまま受け取ることができたのだ。それこそ性別を忘れてしまうくらいに。勇者だという使命があっても、アストロンへの恋心をこれ以上押さえつけなくても良いのかと思えるくらいに。
それなのに、本当の性別は置いておいても、性別を理由に同じ顔のアキレアに婚約を迫るなら、俺に対しての告白はなんだったんだという話なのだ。
俺に好きだと言っておいて、俺の想いを引きずり出しておいてこれはない。
放っておいてくれれば、俺の気持ちは全部、剣の中に封じ込めてしまったのに。
「っ……。」
アストロンが俺の顔が好きで、相手がアキレアでも良いなら、これは失恋になるのだろうか。
あいにく、本当の聖女は自分だから!と開き直ってアキレアとアストロンに婚約させて、いつか魔王を倒した後に俺が結婚してしまおうとかは考えられない。
だって、現時点で俺は自分を偽っているのだ。そうやって結婚できたとして、俺はそこからずっとアキレアが演じていた『聖女フリージア』を偽らなければいけないだろうし、心にわだかまりだって残り続けてしまう。
それならこの恋は、諦めたほうが良いのかもしれない。
ポロポロと目から涙が零れる。整えようとしていた息も荒くなってしまう。まだしばらく教室には行けそうにないなと何処か冷静に思いながら必死で涙を拭った。
「大丈夫?」
「っ!!?」
急に話しかけられて息が止まりそうになった。
「ごめんごめん。そんなに驚かないでくれ。」
涙で視界がぼやけているが、聞き覚えがある声に顔をあげる。
「はい。とりあえず涙を拭こうか。」
顔に柔らかい布が当てられて、布が涙を吸う。ぼやけた視界が晴れた先には
「先輩……?」
あの、回復室の先輩が立っていた。
フリージアはたまにぶっ飛んだ考えをするし、基本的に明るいですが、思考回路はどちらかと言うとネガティブです。誰かも話せないと抱え込んでグルグルしてしまいこむ派。行き場のない感情や想いを魔法で作った剣に込めちゃうタイプです。
気になるかも?良いかも?と思っていただけたらブックマーク、評価や感想をいただけると嬉しいです!
次回もお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いします。