ホワイトレースの提案
なんか第3者視点のお話。
「アストロン王子。」
「やあ、ホワイトレース。かしこまってどうしたんだい?」
それはある日の放課後。魔物の国に行ってから1週間ほど経ったころ。アストロン王子の執務室にホワイトレースがやってきた。
「実は折り入って相談がありますの。」
元最有力婚約者候補の彼女は静かにそう言った。
とりあえずアストロン王子は休憩がてら彼女の話を聞くことにする。お茶と茶菓子を用意する。ちなみに茶菓子は最近勇者たちが仲間に作っているクッキーである。もちろんホワイトレースも聖女から貰ったクッキーを持参していた。旅に関係する話だからと言って人払いをする。
「それで、何の御用兼かな?右大臣家ご令嬢ホワイトレース。」
「王子って、アキレア様が好きですわよね。」
「みなまで言わずとも分かるだろう?」
「大切なことですから。」
王子は少しだけ目を細めてから口を開いた。
「ああ、僕はアッキーが好きだよ。アッキー以外との結婚なんて考えられないほどには。」
ホワイトレースはその言葉に満足そうに頷いた。
「実は私も聖女様をお慕いしているんです。王子が、アキレア様を思うのと同じ気持ちで。」
なんとなく察していたのだろう。王子は驚きもせず静かに頷いただけだった。
「それで?お互いの気持ちを確認してどうするんだい?僕たちの間の婚約関係をどうにかしようなんて」
「王子。聖女様と婚約してくださいませんか?」
「……は?」
今度の言葉は王子を驚かせるのに十分だったようだ。王子は少しぽかんとした後、眉を顰める。
「君は聖女が好きなんだろう?どうして僕と彼女を」
「先日、魔物の国で聖女様はスクード王子に言い寄られていました。アキレア様もポワニャール姫に言い寄られていたでしょう。」
その時のことを思いだしたのか王子の口元がほんの少し引きつる。
「まあ、そうだね。」
「婚約者がいない状態というのは、どうしても隙が多いと、今回のことで痛いほどの思い知りました。」
ホワイトレースはまっすぐに王子を見つめた。
「聖女様とアキレア様は双子のご兄弟。嘘でも一時的でもお二人に婚約者を作るなら、他に2人、人間が必要です。だから王子が聖女様の、そして私がアキレア様の婚約者になれば良いと思ったのです。」
「は?」
「っ!!」
王子は今、一瞬本気で殺意が籠った視線をホワイトレースに向けた。ホワイトレースはそれに息をのむ。しかし彼女はそれでもひかなかった。
「お互いがお互いの好きな人を、他の誰にも手を出せないように、協力しようと言っているのです。王子がアキレア様を好きなのは、痛いくらいわかります。王子が性別を気にしないのと同じように、私だってそんなのどうでもいいのです。けれど、結婚というのは、婚約というのは、どうしてもこの国では性別は無視できないものなのです。」
「そうだとして、本当に結婚する羽目になったらどうするつもりだい?」
「その時は偽りの結婚をして、家族ぐるみでお付き合いしましょう。表向けは私とアキレア様、王子と聖女様が夫婦でも、本当は違う。私たち当事者4人が理解していれば良いことですわ。」
「だけど」
「王子。この話は誰よりもあなたに、得があるお話ですのよ。」
「僕?君じゃなく?」
「最悪の場合、私は逃げてしまえばいいんです。聖女様と駆け落ちするのです。右大臣家の娘がいなくなったら、そりゃある程度大きな問題でしょう。でも、それだけですわ。この国の存続には何の問題もない。私と聖女様がいなくなっても、星の反対側まで追いかけてくる人間もそう多くはないでしょう。」
ですが、とホワイトレースは続ける。
「王子は違います。この国を次、治められるのはあなたしかいない。それは周囲の人間がみんな知っていることですし、本人であるあなたにも分かっていることでしょう。血筋的にも、能力的にも、あなた以上の適任者はいません。ですから、あなたは逃げられない。あなたとアキレア様が駆け落ちしたら、この国は全力でお二人を追いかけるでしょうし、その前に滅んでしまうかもしれません。」
「僕は、逃げるつもりはないよ。」
「そうですよね。王子は、そういう面倒なことはあまり好きではないですもの。」
ホワイトレースはクッキーを1つ食べて、お茶を飲んだ。
「だから、滅ぼすおつもりでしょう?」
「そうならないと良いと思っているよ。」
認めてくれないのなら、どうしてもだめだというのなら、この国を亡ぼす気でいる。もちろんそうならないように努めるし、願ってもいるけれど、最悪の場合はその可能性を否定しない。王子も1つクッキーを手に取り、齧った。
「でもアキレア様はお優しい方です。どんなにあなたが上手くやっても、あなたのせいだと悟られなくても、国が亡べば多かれ少なかれ、彼は悲しむでしょう。」
「……。」
「だから私は提案するのです。周りに嘘をつく、偽りの婚約を。王子のアイテムや魔法が完成するまで聖者様やアキレア様を他の奴らから守る方法を。」
ホワイトレースの提案は確かにリスクが少ない、良いものだった。
少なくとも王子の認めてくれれば良し、認めてくれなければ最悪国を滅ぼすという極論よりはだいぶまともなものだ。王子は少し考えてからため息をつく。
「まあ、頭ごなしに否定するには惜しい案かもね。でもその案は僕と君だけで決めて良いものじゃない。」
「はい。聖女様には私から相談してみます。」
「うん。……アッキーにも聞いてみるよ。」
こうして王子は乗り気ではないながらも、ホワイトレースの案を勇者と聖女に話してみようと思ったのだった。
この物語のヤバいやつランキング堂々の1位はアストロン王子です。2位はホワイトレース。そんな二人の会話。
国より世界より好きな人の方が大切だし、相手が拒否しないなら、その人と幸せになるためには国も世界もどうなっても仕方ないかなと思っている人たち。一応できれば穏便にすまそうと思っているので悪人ではないはず。
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次回もお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いします。




