間話 親愛なる友人2
「勇者アキレアは良い奴だよ。優しくて強い。あれは善良とか、そういう言葉がふさわしい人間だと思う。」
「ふうん。」
王子に言われたから、せっかく調査したのに王子の反応は薄いものだった。
「……反応が薄い気がしますが。」
「僕はいつもこんな感じだよ。報告ありがとう、ライ。」
にっこりと笑顔で、それ以上の言葉を封じられる。
「そうだ、身分がバレるといけないし、学校では僕に敬語じゃなくていいからね。」
「分かりました。」
さっきの報告でうっかり敬語が抜けたのを怒られているのかもしれない。王子の言葉は裏返せば学校以外では敬語で話せという意味に聞こえた。
(勇者に興味があると思ったけど、そうじゃないのか。)
単純に未来の王として気にかけていただけだったのか。俺はため息をついて王子が学校に来るまでの間も学園生活を送った。
アッキーはとても良い奴だった。思っていたよりずっと、まっすぐで強くて綺麗な勇者。王子が勇者に興味がなくても、俺が彼に対して興味がなくなるわけじゃない。王子のことはさておいて、俺はアッキーと仲良くなりたいと思った。
体格の大きな男子生徒よりも圧倒的に強い。多分俺よりも大分強い。有名な剣の先生に訓練を受けているという王子ですらも、彼には敵わないんじゃないかと思えるほどだった。
魔力で剣を作るのも興味深かった。神聖魔法という魔法も、勇者が自分で剣を作るという伝説も知っていたけど、すごいものだと思った。まあ、アッキーからしたらそこまで驚いて見えなかったらしいが。
そんなアッキーは例えが微妙だったり、変なところで抜けていたり、素直で純粋だったりで強いのに何処か危なっかしいというか、妙に可愛らしい少年だった。とにかく俺は自分の意志でアッキーと友達になったのだ。
(王子はきっとアッキーに興味を示さないだろう。)
けれどそんなの関係なく、勇者である彼と長くいい友達でいたかったし、いれるだろう。
そんな俺の予想を遥かに飛び越えていくのが王子とアッキーである。幼い俺はまだそれを分かっていなかった。
俺からの報告もあり、学校に大きな問題はないという判断になった。ちょっと乱暴な子供がいるとかはよくあることだし仕方ないらしい。
「今日から騎士クラスに入ることになったアストロン君だ。」
先生に紹介される王子を見ながら内心で苦笑する。先生、顔が少し引きつってますよ?ここにいる生徒の中で唯一俺だけが正体を知っている王子。
アストロン王子はめっちゃ顔が良い。クラスが全体的にざわついているのがわかる。
(見た目に騙されてるなあ。)
あれは可愛らしい少年の姿をしているけれど、酷く冷めた目で世界を見つめている存在だ。それを知っている俺はどこか冷めた心地だったけれど、まあ反応しないのも可笑しいだろう。
「わあ。すごい子だね。転入生って時点で思ってたけど、かなり上の位の貴族の子なんじゃないかな?」
「そ、そうか?」
「だってあの服。あれは国一のメーカーの布を使ってるよ。それにデザインも上品だ。」
「……それが分かるライも十分上流貴族だと思うが。」
隣にいるアッキーに転入生の感想を言ってみる。
(意外と鋭いな……?)
自分が上流貴族だと言い当てられて苦笑してしまう。
しかし俺と話しているのに、アッキーの瞳はアストロン王子に向けられていた。いつもキリッとしたまっすぐな視線が、ほのかに熱を持ってほんの少しのとろみを持つものになっている。しかもアッキーの頬は夢見るように少しだけ色づいていた。
「かわいい……。」
「アッキー……ああいうのが好みなの?いや、あの子は男の子だけど。」
うっわぁ……。まさかのアッキーの好みドストライク?
俺は思わずちょっと引いた。アッキーに対してというより、アッキーまでも見惚れさせる王子の見た目と演技力にだ。この時俺はアッキーがちゃんと王子を知って目を覚ましてくれるのを望んでいたのかもしれない。
「あの子は多分ね、止めといたほうが良いよ。うん。アッキーには、それこそ聖女みたいな子が良いんじゃないかな?まあ俺アッキーの双子に会ったことないんだけどさ。」
アッキーは良い子だ。あんな、感情が無いような王子に近づいても良いことなんてないだろう。
俺はアッキーに普通に幸せになってほしかった。アッキーみたいにまっすぐな良い子には純粋無垢で可愛らしい所謂聖女みたいな子がお似合いだと思う。まあ実際の聖女様は彼の妹でありそういう関係になる存在じゃないことは分かっているけれど。
(王子がいない……!!)
学校が終わって、アッキーと挨拶して、王子を見守りながら帰ろうと思っていた。
けれど何と言う失態。
俺は王子を見失ってしまっていた。王子は目立つ。もしかしたら誰かに絡まれているのかもしれない。
(王子に手をあげる奴とか、いないと良いんだけど!!)
そうなったら自分も犯人もどう処罰されるか分かったものじゃない。いや、その前に王子はなかなか強いので、相手が大けがをする可能性もあるけれど。
焦りながら学校中を走り回り、ようやく見つけた王子は
「ねえ、ライ。僕、決めたよ。アキレアの、勇者のパーティに入る!!」
別人のように目を輝かせてそう言い放った。
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