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勇者と聖女のとりかえばや ~聖女が勇者で勇者が聖女!?~  作者: 星野 優杞
勇者のままではいられない
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魔王の運命

「勇者様は真面目なようなので、魔物間での勇者や聖者の伝承などの方が興味があるよう

じゃな。」


隣に座ったポワニャール姫がそう言いながら、自分用に取ってきたらしいオレンジを口に放り込んだ。


「まあ……。あ、そうだ。魔王の話とかないですか?そっちの方が気になるかな。」

「あの、アッキー……勇者殿を運命とか口にする輩ですね。まあ敵ですから、敵についての情報収集はするべきですよね。」


なお、ポワニャール姫と反対側の席にはアストロンが座っている。視界の端でアキレアにスクード王子が言い寄っているが、こっちはこっちで修羅場なのでどうにもならない。

まあ、アキレアとホワイトレースは口が上手いし、向こうの方が危ないと考えたのかライがついていてくれるからそこまで心配はしなくても良いと思うけど……。


「魔王が勇者様を運命と?」

「ふざけた話ですけどね。」

「いや、当たり前のことじゃろう。」

「「え?」」


ポワニャール姫はさも当然のように平然とそう言った。


「だって紛れもなく勇者は、魔王にとって唯一の死の運命なのじゃから。」


俺とアストロンは揃って固まってしまった。そんな俺達を見てポワニャール姫は首を傾げた。


「ああ、もしかして人間にはあまり馴染みがないか?寿命が長いのは良いことばかりではないぞ?特に魔王は、勇者以外には殺せない……勇者に殺される以外に死ぬ方法がない存在じゃからなあ……。」


固まる俺とアストロンをわき目にポワニャール姫は言葉を続ける。


「木のような植物であれば千年以上耐えられるであろうが……魔物でも長すぎる生は耐えがたいじゃろう。周りの者は皆、いなくなっていく……。

勇者と魔王には圧倒的力の差があるじゃろう。それでも何故魔王は勇者をすぐに殺さないのか。勇者さえ殺してしまえば、自分の命を脅かす存在はいなくなるというのに。

……答えは簡単じゃ。死という選択肢を残しておきたいから。一説には昔、早々に勇者を殺して数千年生きることになった魔王の後悔が魔王という存在に刻みつけられているともいうのう。」


くるくると、ジュースをストローで混ぜながらポワニャール姫は語った。それは人間にはあまり思いつかないような、死の捉え方。


「魔王にとって、殺されることは……死ぬことは悪いことだと思っていました。」


ぽつりと、本音をこぼす。姫はそんな俺をちらりと見て微笑んだ。


「まあ、大体はあまり良いことではないからな。けれど、時として死とはとても甘美な救いになることも、簡単な終わりになることもあるのじゃ。」


意図的にそういう風に描かれる場合は大抵何らかの悪意が関わっていることが多いが。ポワニャール姫はけらけらと笑ってそう言った。それからまっすぐ、真剣に俺を見てきた。


「え?な、なんですか?」

「いや……今代の魔王は比較的幸せ者じゃと思ってな。」

「え?」

「何も考えず、魔王を悪と断じて倒す勇者も多いと聞いた。しかし、お主は違う。世界のことだけでなく魔王のことも考え、判断しようとしている。」


それは……俺が、聖女だからなのだろうか。

俺を見つめてくるポワニャール姫の瞳はどこまでもまっすぐで、そんな想いも見透かされてるんじゃないかって……


「お主は本当に、良い人間なのじゃな。」

「!」


俺の不安をよそに彼女はそう言って柔らかく微笑んだ。






「神が用意した俺の運命」

「お前が俺の運命だとしたら、世界はきっと、俺に生きろと言っているんだ」


ワープクリスタルを魔物の皆さんにお披露目して、魔物の国にもワープクリスタルを設置させてもらった。

それを使って人間界に帰ってきた俺は魔王のセリフを思い返していた。さんざん運命運命言ってきたけど、あれは死の運命という意味だったのか……。


(というか、魔王、生きる決意してね?)


思い返してそんな考えに至った俺は軽く頭を抱えた。

俺が勇者であると偽ってしまったから、魔王が生きたいと思ってしまった。俺個人としての感情は置いておいて、世界としてはあまり良くないことである。


それから……。俺はそっと自分の手を見つめる。

この感覚は、新しい魔法が使えるようになるのと同じ感覚。だけど、違う。もっと根本から、自分を構成するすべてが底から押し上げられるような感覚。

俺はちらりとアキレアを見る。アキレアも俺を見ていたようで目があった。どうやら価値観が全然違う魔物の国に行ったことで、お互いに自分なりの答えとやらが形になってきたらしい。これは……


「難しい顔してどうしたの?」


アストロンが首を傾げて尋ねてくる。


「ちょっと、神聖魔法に変化があったみたいでな。」

「そうなの?」


さすがにこればかりは言えない。


(最上級魔法が使えるようになったかもしれないなんて。)

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