魔物から見た勇者と聖者
「……。」
「……。」
すごく視線を感じるんだが……。あれから俺はなんというか、ポワニャール姫に虎視眈々と狙われている。
軽い歓迎会ということで自分で好きなものをとって食べる形式の小さなパーティなんだけど……。
「勇者よ、お主は何が食べたい?儂がとってきてやろう。」
「えっと……自分でとれるので。」
「そうですよ、ポワニャール姫。はい、アッキー、唐揚げとハンバーグ。好きだよね。」
「お、おお。まあ好きだが……。」
アストロンが割って入ってきて笑顔でポワニャール姫を牽制している……。ポワニャール姫は不服そうに口を尖らせた。
「別によいではないか。勇者は人間だが、今代は王族でもなかろう?儂と結婚すれば、死ぬまで可愛い儂と一緒に居れるのじゃぞ。」
その言葉に俺は苦笑する。そう、魔物と動物は、同じ人型でも寿命が圧倒的に違う。ポワニャール姫は俺が死ぬまで結構若々しい姿だろうし、彼女たちの父親は先代の勇者たちに会ったこともあるらしい。
「連れないのぉ……。勇者と聖者は人間にしか生まれないから、元から会いにくいというのに。」
その言葉に俺は目を瞬かせる。確かに勇者も聖者も、本で読んだ限りすべて人間だった。魔王は色んな姿をしていたのに……。
俺の表情から興味が惹けたと判断したのかポワニャール姫の機嫌が少し良くなる。
「知らぬのか?魔物は寿命が長いし、扱える魔力の最大値も人間より多い。だから魔物に勇者や聖者の力を与えると一代限りの力といえ、数百年にわたり圧倒的強者を生み出してしまうのじゃ。だから儚くて弱い人間が勇者と聖者に選ばれるんじゃな!!」
胸を張って誇らしげに言うポワニャール姫。
「こら!失礼だろう。」
それを窘めたのはやはりスクード王子だった。
「でも事実じゃろ?」
「人間は寿命が短くとも、その中身はとても濃いものだと言う。単純に考えるものではないよ。」
魔物にも色んな考えがあるんだな……。そう思いながら唐揚げを口に運ぶ。
「そういえば、どうしてそんなに勇者と結婚?したいんですか?」
何となくポワニャール姫に尋ねてみる。横にいたアストロンは既に理由が分かっているのか興味なさげにため息をついた。
「ふふふ。決まっとるじゃろう!!結婚すれば勇者や聖者の神の加護を受けた魔力がいつでも食べられるではないか!!」
「食欲……?」
さっきもそんなこと言ってたけど、どういうことなのか。
「というか魔物って魔力を食べるんでしたっけ?」
「うむ。もちろん食べ物から栄養を摂ることも可能じゃが、主食は魔力じゃ。空気中の魔力などを吸収しながら生きている。魔物の魔力と違い、人間の魔力は雑味が少なくて良い。王家の魔力など人間の中でも最上であろう?だからそこの王子を追いかけまわしていたんじゃが……。」
(つまりアストロンに結婚を迫っていたのは恋愛感情じゃなくて、ただの食欲だったのか……。)
ほんの少しだけホッとする。
「勇者と聖者となれば話は別じゃ。まあ……どうしてもお主が嫌なら、聖女の方が兄さまの誰かと結婚するというのもありじゃが。」
「は?!」
ポワニャール姫の視線がアキレアの方に向く。視線を受けたアキレアも驚いたようだ。隣にいたホワイトレースがさり気なくアキレアを視線から庇うように動いた。
「い、いやいやそんなに勝手に姫のお兄様たちの縁談の話をするのは」
「構いませんよ?」
「へ?」
落ち着いた優しい声に顔を上げる。スクード王子はにっこりと良い笑顔だった。
「聖女様を嫁にできるなら、喜んで。きっと兄さまたちも同じ答えでしょう。」
(他にもお兄さんがいるんですね?!)
というか、これは……結構本気かな?
後ろの方でアキレアとホワイトレースがバリバリに警戒しているのが伝わってくる。
(ん?本当の聖女は俺だよな……。)
もしかしてこれ正体ばれたらそれはそれでまずいやつでは?
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