仲直りをしよう
さて、お菓子を作って家に帰ったからには、ここからが本番だ。
「フリージアって帰ってる?」
母さんに尋ねればフリージア(アキレア)は部屋にいると教えてくれた。
「あなた達、何か喧嘩でもしたの?」
「うっ。」
「まあ、喧嘩くらいするわよね。今まで数日にわたる喧嘩もしたことないし、珍しいけれど。拗らせないようにね。」
「うん……。」
確かにそう考えてみると俺とアキレアは激しい喧嘩をしたことが無かった。お互いにお互いを分かったつもりになっていたからか、お互いを思い合っていたからか。それでも魔王に関することはお互いに譲れなかったわけだ。
「入っていい?」
アキレアの部屋のドアをノックする。親しき中にも礼儀ありである。
小学生の高学年の頃から俺達には自室が与えられた。隣同士で行き来自由な感じだが。それでも一応、部屋の間にドアがある。
「……いいよ。」
しばらくの沈黙の後、返事が返ってきた。
意を決して、部屋に入り、扉をしっかり閉める。
それから勢いよく振り返ってアキレアに向けてクッキーを差し出す。
「「ごめんなさい!!」」
ん……?
ぴったり重なった声に思わず顔を上げる。すると同じタイミングで顔を上げたであろうアキレアと目があった。そして俺と同じようにアキレアの手にも何かの包みが……。
俺達は顔を合わせてどちらからともなく笑い合った。
「うん。美味しい!」
「よかった。アキレアのくれた化粧水も俺の肌に合うみたいだ。」
アキレアがくれたのは化粧水だった。多分、勇者を演じ続けろと言ったけど、俺に少しでも女子らしい生活をさせてあげたいという配慮からだろう。
聖女(正確には勇者だが)の加護をこめた化粧水らしい。化粧水の作り方は元々ホワイトレースから学んだもので、たまに一緒に作るんだそうだ。浄化した水に、グリセリン?とかビタミンCとかを入れているとかなんとか。加護もついているのでヤバいくらい効果がありそうなマジックアイテムである。
「……このクッキー、少しだけのフリージアの加護を感じるね。」
「そうか?意識してなかったけど、もしかしたら俺が作るとそれだけで少しは加護が付与できるのかもな。」
アキレアはクッキーを見つめて何か考えている。どうしたのだろうか。
「もしかして、これが悪のオーラに対する対策になるかも……。」
「え?」
「つまりね、私たちの加護を宿したものをパーティメンバーに日頃から体内に取り込んでもらうでしょ。」
「うん。手料理を食べてもらったりする感じか。」
「そう。そうすることによって体内に悪のオーラの影響を受けない神の加護が蓄積されて、魔王が悪のオーラを操っても影響を受けにくく出来るんじゃないかな?」
アキレアが言うには一応、状態異常を防ぐ神聖魔法は存在するがまだ俺達は2人とも習得できていないし、昔の勇者一行の話でも勇者や聖者が料理を作って仲間たちと食事をとるシーンは多くあるらしい。過去の勇者の仲間は一緒に魔王と戦った記述があるものもあるから、俺達の加護を宿したものを体内に摂取してもらえば、悪のオーラの影響を受けなくなる、または受けにくくなる可能性は大いにあるとのこと。
「損はしないし、試してみてもいいかもな。」
それこそ焼き菓子とかなら比較的日持ちするものもあるし、ある程度作って毎日食べてもらえばいい。クッキーの作り方は覚えたし。
「じゃあ早速作るか!」
「うん。」
バターと小麦粉と砂糖くらいなら家にあるはずだ。母さんに行って台所を貸して貰おう。
俺達は揃って母さんのところに向かった。そんな俺達を見て母さんは少し目をぱちくりさせてから
「すっかり仲直りしたのね。」
と笑った。
そう言えばそうだった。俺とアキレアは顔を見合わせてから、揃って頷いた。
アキレアに魔王を殺さない方法を探すことは伝えていない。
伝える勇気が無いと言われてしまえばそれまでだけど、見つからないかもしれない希望を伝える方がきっと酷だと思ったからだ。
魔王を殺さなくても良いかもしれないなんて希望を与えて、方法が見つからなかったらどうする?魔王を殺せるのは俺じゃなくて、アキレアただ一人なのに。
だから、伝えられるとすれば
(それは魔王を殺さなくてもいい方法が見つかったらだ。)
色々と抱えているものがあっても、とりあえずは仲直り。
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次回もお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いします。