ありのままを受け入れられなかった結果
この物語の世界でも、元からの悪人はいるけれど、比較的良い人が多い穏やかな世界です。
「まず魔王というものが生まれる理由だが、この世界は神によって出来るだけいい世界であるようになっているようだ。」
「出来るだけいい世界?」
「人間やら魔物やら、そのどれもが普通に存在していたら世界はもっと悪意に満ちているという話だ。まあ元々性悪説の世界を性善説に変えているという感じか。」
少し難しいけど神様の力で、本当はもうちょっと悪い感じな世界を良い感じに調節してるってことかな。
「それで、何が問題なんだ?」
「調節した悪意を浄化したり、分解したり……消し去る方法は存在しなかったわけだ。」
「ん?つまり世界の悪意はとれても、無くなってないってこと?」
「そうだな。そしてその悪意がある程度溜まると、実体を伴って世界に現れるのが魔王だよ。」
つまり……
「もともとの、今より悪意が溢れている世界を神様が受け入れていれば、魔王は生まれなかったってこと?」
「その通りだ。よく理解できてるよ。そして魔王の誕生は神にとっても予想だにしていないことだった。世界を完全な良い世界にすることはできず、歪みを一身に受けた存在を生み出してしまった。神は色々悩んだようだ。しかし実体を得た悪意の塊である魔王を殺せば、それまでの悪意を消し去ることができると気が付いた。そこで加護を与えられた存在が勇者だ。」
「魔王を……殺すための加護を……。」
「そう。魔王を殺す勇気を持った人間に、魔王を殺せる加護を与える。それが神のしたことだ。」
ん?でもそれだと聖者って必要なくないか?
実際問題、今俺は魔王を殺したくもないし、勇者に殺させたくもないのだが。
「え?聖者は何のために?勇者の補助?魔王が圧倒的に有利だから……。いや、でもそれなら愛を基準に加護を与える人間を選ぶのは逆効果っていうか」
「そこが神の優柔不断なところだよ。」
「え?」
「神は別に、魔王を生み出そうと思って生み出したわけじゃない。結果的に殺されるために生まれる存在を作り出してしまったことに罪悪感すら抱いていたんだろう。勇者だけでは、絶対に魔王を殺そうとするだろう。けれど、本当にそれでいいのか。そんな悩みと想いから加護を与えられた存在が、聖者。世界を、魔王すら愛せる愛を持った人間だ。その力は世界中の誰に対しても有効で、世界で一番の回復をすることができる。」
「何というか……神様面倒ですね?」
「まあ……だが加護を与えたその後は関与してこないし、どんな選択をしようと咎められることも無い。」
そう言えばそんな話を以前もしていたな、と思いだす。
「とりあえず魔王は、世界に本来あったはずの悪意を取り除いたことによって生まれた実体のある悪意の塊ってことか。」
「そうだね。そして実体がある魔王を殺すことによって実体がなく、消し去れなかった悪意を消し去ることができる。」
「魔王を殺すことでしか、その溜まった悪意を消す方法は無いのか?」
「そうだね。結局……私の知る限りでは、今のところはそれ以外の方法は見つかっていないかな。」
まあそんな方法が分かってたら言うよな……。
とりあえず魔王がなぜ生まれるか、魔王を殺すと世界から切り取られて溜まってた悪意が消える、ってことが分かっただけでもよしとするか。
でも魔王が悪意の塊なら実体も、人格も無い悪いものであれば良かったのに。それならこんなに悩まずに魔王を倒すだけで済んだのになあと少しだけ考える。まあ、そうじゃないから考えても仕方ないことだけれど。
「うん。ありがとうございます。クローバーさん。俺、ちょっと色々考えてみます。」
「ああ。何か聞きたいことがあれば、また本を開いてくれ。」
魔王を殺さないで倒す方法は、俺一人で考えなければいけないことじゃない。アキレアは協力してくれなさそうだけど……。
「アストロンは一緒に考えるって言ってくれた……。」
アストロンと一緒なら、どうにかなるかもしれないと俺は思っている。
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