前を向いて進もう
「あの子の勇気は本物だよ。」
放心していた俺にクローバーがそう言った。アキレアはひとしきり泣いた後、俺に謝って先に家に帰ってしまった。
「あの子は、本当に魔王を殺すと決意している。例え魔王と戦う実力がなかろうと、殺せる隙を作ってやれば、必ずやり遂げるだろう。」
「……驚かないんですか?」
クローバーの前で俺は勇者としてふるまってきた。それなのにクローバーはアキレアが勇者だと、俺が聖女だと驚かずに受け止めているようだった。
「……私は君に、嘘をついていたんだ。私が見えるのは、勇者と聖者ではなく、聖者のみなんだよ。」
「じゃあ、最初から俺が聖者だって分かってたんですか?」
「そうだね。……難儀だと思っていたよ。」
「難儀……ですか。」
「勇者と聖者は、勇気と愛。神が選ぶ基準が違う。特に魔王への感情には矛盾が発生することが多い。聖者が勇者を演じても、物理的だけではなく精神的にも魔王を殺せないだろう。」
そうか。元々、無理があることだったんだ。
「……入れ替わりたいなあ。」
俺にもっと勇気があって、あの日、泣くアキレアに、入れ替わりなんて提案しなければ良かった。
だって聖者は勇者にはなれない。俺は勇者ではいられない。
「……それでも彼は、きっと救われてきたんだろう。勇者の重責は、相当なものだ。……例え聖者のお前が、勇者以上に勇者らしくてそれに劣等感を抱いていたとしても。」
「劣等感……。」
そうだ。アキレアが演じる聖女フリージアは大人しくて可愛くて優しくてきれいで、俺なんかよりもずっとずっと聖女らしかった。アキレアも俺に、同じような感情を抱いていたのだろうか。
……だけどそれでも、俺はアキレアが大切だし、大好きな片割れだと思っている。
アキレアは魔王殺すと言った。けれど、それは、殺したいから殺すのではないだろう。
命に優先順位をつけられると、アキレアは言っていた。
つまり、つけなくてもいい状態であれば良いのでは無いだろうか?
それにアキレアは大切な存在として俺の名前もあげていた。
ある意味では、アキレアが魔王を殺すのは俺(達)のためと言っても良いのかもしれない。
「……うん。やっぱり俺、魔王を殺さない方法を探すよ。」
「おや、随分早い立ち直りだな?」
「だって俺、アキレアのこと普通に大切だし。大切な人に誰かを殺させるなんてしたくないだろ。」
過去に間違いがあっても、落ち込んでいるだけでは前に進めない。
「……そうだね。よし。君に魔王についての知識を与えよう。」
「魔王についての知識?」
「魔王を探していた時の私が、後悔していた時の私が、世界を憎んだ私が、魔王という存在について調べ、分かったことを教えよう。」
それは有り難いが……
「なぜ急に?」
「時間的余裕はそこまで無いだろう?旅をしているから暇もないだろうし……そろそろ君たちは最上級魔法を習得すると思われる。」
「それって分かるの?!」
「旅をして世界を知り、自分なりの答えが見えてくると習得できる場合が多いからな。」
そう言われると……そろそろなんだろうか?
とにかく教えてもらえることは教えてもらおう!
俺はクローバーに向き直った。
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