間話 聖女のままではいられない2
「でもアキレアは臆病で、怖がりで、痛いのが嫌いで!!今日だって魔王に睨まれてあんなに震えていたのに、魔王を殺せるはずがない!!」
フリージアが叫ぶ内容はその通りだ。反論のしようもない。
実際私は今日、魔王と相対してとても怖かった。だって、私が本気で魔王を殺そうと思ったのと同じように、きっと魔王も私を本気で殺そうと思ったに違いないから。
「そうだね、フリージア。魔王は怖かった。戦うのはやっぱり嫌い。……だから魔王を殺すまで、演じきって。」
「は?」
「私は臆病者だから、魔王を殺すことしかできない。だからその瞬間まで、フリージアが勇者でいるの。」
「何それ?」
わけのわからない我儘を言っているのは分かっている。
魔王と戦いたくないのに、戦えないのに、殺すことだけはしたい。魔王を殺したくないと思ってるフリージアに、殺す直前まで魔王を殺す勇者のふりをし続けろと言っている。
可笑しくて、つい自嘲めいた笑みがこぼれる。
「神様は、正しい勇気が分からないんだと思う。私にはいつだって、間違った勇気だけが溢れている。」
「間違った勇気……?」
「私は嫌なことを嫌だって言える、弱音を吐ける、逃げられる、命に優先順位をつけられる。そんな勇気だけは、いつだってあるんだよ。」
嫌だなあ。
こんな勇気しかない私も、こんな私を勇者に選んだ神様も。
「そうでしょ?だってフリージアは、私に、嫌なことを嫌だっていう勇気も弱音を吐ける勇気も無かったもんね。」
フリージアにこんなことを言ってしまう自分が、なにより嫌だ。
フリージアの目が見開かれる。
どんなに勇気がある人だって怖くないわけじゃない。
ましてやフリージアは勇者ではなく聖女だ。
「フリージアの勇気は、勇者としての勇気じゃない。」
「やめてくれ、アキレア。」
フリージアの制止を無視して私は言葉を続ける。
「フリージアの勇気はいつだって、愛からくる勇気だ。」
「アキレア!」
「それに、フリージアの愛は未熟だよ。」
私はいつだってズルい。卑怯な臆病者だ。
「フリージアはあの日、私に入れ替わろうって言って慰めるんじゃなくて、聖女として勇者を支えるから勇者として立ってと言うべきだったんだよ。」
フリージアのせいにして、
フリージアに罪悪感を抱かせて、
無理やり魔王を殺す勇者を演じさせようとしている。
私の言葉にフリージアが膝をつく。
「アキレア……。」
泣きそうな顔で私を見上げるフリージアは、可憐でか弱い、女の子の表情をしていた。
今の彼女を見れば、きっと皆、彼女が聖女だと言っても疑わないだろう。
私は、そんな聖女に酷いお願いをする。
「だからお願い、フリージア。未熟な愛の責任をとって。魔王を殺すその時まで、勇者アキレアでいて。フリージアの演じる勇者アキレアは、かっこよくて優しくて、誰もが夢見る理想の勇者だから。こんなに汚い私にはなれない、理想の勇者だから。」
困っている人を放っておけない聖女に、縋りついて私はお願いをする。
こんな勇気だけはあるのが嫌で、
フリージアにこんな酷いお願いをするのが嫌で、
きっとフリージアは断らないってわかっている自分も嫌で、涙が出る。
フリージアは何処か呆然とした表情だったのに、それでも私が泣き止むまで頭を撫で続けてくれた。
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