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勇者と聖女のとりかえばや ~聖女が勇者で勇者が聖女!?~  作者: 星野 優杞
勇者のままではいられない
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間違った勇気と未熟な愛

「ほ、他の方法があるかもしれないし」

「既に悪オーラを無くす方法は分かってるんだよ?他の方法なんて探すのは時間の無駄。魔王を殺さなくちゃ、私たちは元のアキレアとフリージアに戻れないんだよ?」

「それはそうかもしれないけど。」


けれど時間の無駄だからって、命にかかわる問題をそんなに即決して良い訳がない。


「フリージア、好きな人がいるんでしょう?」

「っ。」

「私にもね、好きな人がいるんだ。」

「!?」


そう言えば以前にアキレアは踊りたい相手がいるとか言っていた気がする。

アキレアは胸元に手を当て、可愛らしく言葉を続ける。


「ねえ、好きな人と早く結ばれて、幸せになりたいでしょ?」

「で、でも……誰かを殺して幸せになるなんて……!!」


誰かを殺して掴んだ幸せ。それで本当に幸せになれるんだろうか。

少なくとも、俺は、胸の内に罪悪感を抱えて生きていくことになると思う。


「やっぱりフリージアは聖女だ。」

「え?」


俺よりよっぽど聖女らしい姿をしたアキレアが静かに言った。


「フリージアは人の命に優先順位をつけることが、天秤にかけることが出来ないんだよ。」

「それは……。でも、それならアキレアだって」


優しいアキレアにだって出来ないんじゃないか。俺はそう言おうとした。


「出来るよ。」

「え?」

「私は出来る。命に優先順位をつけられる。……流石にフリージアとホワイトレースのどちらかを選べって言われたらすごく困るけど……。でも今回は簡単だよ。大切な人達と、赤の他人。赤の他人が倒すべき相手で、倒せば世界が救われる。悩む余地もない。」

「アキレア……。」


目の前の片割れが、分からないと思った。

こんなに似ているのに、今までずっと一緒だったのに、こんなに違う部分があるとは思わなかった。


「でもアキレアは臆病で、怖がりで、痛いのが嫌いで!!今日だって魔王に睨まれてあんなに震えていたのに、魔王を殺せるはずがない!!」


思わず叫んでいた。だって出来るはずがないのだ。いくら口でそう言ったって、出来るはずがない。実力だって、勇気だって足りていない。


「そうだね、フリージア。魔王は怖かった。戦うのはやっぱり嫌い。……だから魔王を殺すまで、演じきって。」

「は?」

「私は臆病者だから、魔王を殺すことしかできない。だからその瞬間まで、フリージアが勇者でいるの。」

「何それ?」


意味がよく分からなかった。

え?戦うのは俺にやれってことか?殺すのだけはアキレアがやるから?

確かに物理的に魔王はアキレアにしか殺せないけれど。いや、確かに俺は悪のオーラがなくなって、勇者と聖女が必要なくなるまで勇者でいようと思ったけれど。


「神様は、正しい勇気が分からないんだと思う。私にはいつだって、間違った勇気だけが溢れている。」

「間違った勇気……?」

「私は嫌なことを嫌だって言える、弱音を吐ける、逃げられる、命に優先順位をつけられる。そんな勇気だけは、いつだってあるんだよ。」


アキレアの目を見てハッとする。目にはうっすら涙が浮かんでいた。


「そうでしょ?だってフリージアは、私に、嫌なことを嫌だっていう勇気も弱音を吐ける勇気も無かったもんね。」

「っ。」


胸に穴が開いて、冷たい風が吹き抜けたように思えた。

見透かされていた。この片割れは分かっていたのだ。



入れ替わろうと言ったあの日


(私も、怖いよ。痛いのも苦しいのも嫌だよ。)


本当はフリージアの心だって不安で揺れていた。

泣きたくて仕方がなかった。



「フリージアの勇気は、勇者としての勇気じゃない。」

「やめてくれ、アキレア。」

「フリージアの勇気はいつだって、愛からくる勇気だ。」

「アキレア!」

「それに、フリージアの愛は未熟だよ。」


あの日、入れ替わろうと言ったのは俺だ。

確かに未熟な発想だろう。でも、仕方ないじゃないか。

まだ年端もいかない子どもだったんだから。


「フリージアはあの日、私に入れ替わろうって言って慰めるんじゃなくて、聖女として勇者を支えるから勇者として立ってと言うべきだったんだよ。」


ガツンっと、頭を殴られるほどの衝撃を感じた。

間違っていた。

間違っていた?

全て、あの日からの全てが。


「アキレア……。」


いつの間にか俺は床に膝をついてた。

見上げればアキレアが苦しそうな表情で、俺を見下ろしていた。


「だからお願い、フリージア。未熟な愛の責任をとって。魔王を殺すその時まで、勇者アキレアでいて。フリージアの演じる勇者アキレアは、かっこよくて優しくて、誰もが夢見る理想の勇者だから。こんなに汚い私にはなれない、理想の勇者だから。」


アキレアが泣きながら俺の肩に顔をうずめてくる。


アキレアに言われた言葉が、虚無感が胸の内を占める。

けれど頭のどこかで落ち着いた俺が呆れように笑う。

小さい時からずっと泣き虫なのは変わらないな。

そんなことを思いながら俺は、アキレアの頭を撫でた。

次回からアキレア視点の間話が入ります。


気になるかも?良いかも?と思っていただけたらブックマーク、評価や感想をいただけると嬉しいです!

次回もお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いします。

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