聖女の笑顔で勇者は言い切る
「それで、君は私の話を知って、これからどうするんだ?」
クローバーは静かに俺に問いかけた。
「俺は、できるなら、魔王を殺さずに倒す方法を模索したい。」
「それは、難しいよ。」
「それでも、何も考えずに、何も知らずに、魔王を殺せばいいっていうのは、違うと思う。」
クローバーは俺を見て苦笑する。
「勇者と聖者はほとんどが別人だ。本当にまれに勇者であり聖者でもある人物が生まれることもあるけれど、私より前に2人ほどいたという伝説を聞いた程度だ。何故かわかるかい?」
「ん?勇者と聖者が同じ人じゃない理由?むしろ1人の人間がどっちでもあるパターンがあるんですか?」
「はは。まあそう思うのも無理はない。いや、本当に強くて勇気があって優しくて世界を愛するような人物であればありえないことも無いって話だよ。大概は整合性がとれないから別人になるんだけどね。」
「整合性?」
「神が望む、魔王を殺す勇気と魔王すらも愛する愛は1人の人間が抱えるには反発しすぎているんだ。」
「それは」
確かにそうかもしれない。
俺は、俺が、こんなに苦しいのは、俺が本当は勇者じゃなくて――
「あら、アキレア。奇遇だね。」
「ふぁっ?!」
部屋の扉が開いたと思ったら、アキレアが入ってきた。驚いた俺は思わず椅子の上で飛び上がってしまう。
って、ヤバい。不自然じゃないように日記とクローバーの本を隠さないと!
しかし俺の動きは間に合わずアキレアに机の上の本を見られてしまう。
「この本って……。」
(わー!!クローバーのことバレた!!)
「この本、今日の村の聖者の本?」
「へ?」
アキレアが手にしていたのは、クローバーの日記の方だった。
え?そっち?なんか小人が飛び出してる本の方が気にならない?
ちらりとクローバーを見ると驚くでもなく、静かにアキレアを見つめていた。
え?なんだ?もしかして勇者と聖者の先に本を開いた方にしか見えないとか?!
俺が混乱している間にも、アキレアは日記をぱらぱらとめくり、大体の内容を理解したようだった。
「立派な話だね。」
「……え?」
「誰が魔王でも、魔王を倒すのが勇者の務め。それを果たしたこの勇者は、立派な勇者だと思うよ。……それに、彼らのしたことを世界に優しく広めた聖者も立派だと思う。」
確かに立派なのだろう。勇者として、聖者として……。でも
「悲しいとか、可哀そうとか……思わない?」
それが最初の感想なのか。
俺は思わず耳を疑ってしまった。アキレアは俺の言葉に目を細める。
「もちろん思うよ。大切な人を手にかけるなんて、私には出来るか分からない。けれど、過去にこういうことをした勇者がいることは……勇気のない私の、勇気になる。」
「それはどういう……」
「今の魔王は、赤の他人。私が守りたいのは大切な人が生きる世界。ならば迷う必要は無いでしょう?」
俺は多分、目を大きく見開いたんだと思う。そしてアキレアはそんな俺を見て少しだけ目を見開いた。
それからふんわりと、聖女らしく、可愛く美しく笑った。
「ねえフリージア、もしかして魔王を殺したくないって思ってたりする?」
「え……?」
名前で呼ばれた。学校で本当の名前で。
でもそれを聞く余裕もないくらい、アキレアの質問の内容に俺は言葉を失っていた。
「フリージアは優しいもんね。やっぱり本当の聖者……聖女様は違うよね。」
「え?あ、アキレア?」
アキレアはクスっとおかしそうに笑っていた。
「でもダメだよ。魔王は殺さなきゃ。」
「!!」
言い切るアキレアに俺は絶句した。
ちょっとしたら、アキレア視点の間話を挟む予定です。彼は彼で色々あるので……。
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