放っておけない
さて、その日の放課後だった。ライは寮暮らしなので別れて、家に帰ろうとしたところだった。
「お綺麗な顔してるからって調子に乗るんじゃねーぞ!!俺の家は大きな店ともつながりがある貴族の家なんだからな!!」
「転入生とか言って、学費が払えなくて入学が遅くなったんじゃねーの?」
「あり得る!!後は実力不足とかな。こんな綺麗な顔で剣なんて持ったことも無いんじゃねえ?」
「!!」
その声は自分に勝負を挑んできた体格の良い男子と、その友達?……手下……一緒にいる子たちの声だった。
そして彼らが誰に対してその言葉を言っているのか分かってしまった。
先生を呼んできてもいいけど……その間にあのきらきらした少年が少し痛い目に合ってしまうかもしれない。そう思ったらいてもたってもいられなかった。
「……何してるんだ。」
声のする方に行けば予想通りの光景が広がっていた。3人のクラスメイトが一回り小さなあの転入生を取り囲んでいる。
体格は大きい差になりうる。自分より大きな相手はどうしても少し怖いし、逆に小さいとそこまで威圧感を感じない。自分より大きな男子3人に取り囲まれるのは結構怖い状況だと思う。
転入生は手をギュッと胸の前で握りしめて、ぷるぷる震えていた。その瞳には涙が溜まっていてきらきらと輝いていた。
「ああ?勇者様じゃねーか。何だよ。俺たちと手合わせしたいのか?」
3対1だぜ?と3人はにやにや笑う。この学校では基本的に魔力の使用が禁止されていない。魔力の扱いに慣れることも大切だからだ。だから俺はいつも自分に身体強化系の神聖魔法をかけている。
「ああ。それもいいな!」
放っておけないのだ。昔から。
しくしくと、怖いのだと、流れる涙を見過ごせない。
自分の片割れに、ああ言った、あの夜から。
神聖魔法で剣を作り出す。相手はクラスメイト。そう考えながら剣を振るえば、多分切れないはずだ。
(動きは最小限に。きっと力じゃかなわない。)
剣と剣がぶつかったら、相手の力を利用して、回転を付けて、相手の剣の上にこちらの剣を滑らせる。
「!!」
剣の上を滑った剣で相手の胸を突いた。
うん、切れない。それでも痛いものは痛いだろう。
「くそ!!」
こちらが魔法を使えるということは、相手も使えるということだ。足元の植物が動き出し、脚に絡みついてこようとする。仕方が無いから軽く地面を蹴って、宙に舞い上がる。
空中では身動きがとりづらいのは真実だけど、それを理解していれば―――――
「っ!!」
「痛っ!!」
その隙をついてこようとする奴らに、空中で対処することだってできるのだ。
3人がしっかり倒れたことを確認して神聖魔法で作った剣を消す。
気絶しているけど、学校内だから多分先生が見つけてくれるだろう。
校則違反ではあるけど、現行犯じゃないし、俺はあまり咎められないはずだ。うん、多分。
さて……
「大丈」
「ありがとうございます!!」
「うわ!?」
油断したところにタックルをくらって、そのまま地面に倒れてしまう。
思わず瞑った目を開ければ、キラキラが目の前いっぱいに……って、これは
「すっごく強いんですね!!お名前は?僕はアストロンです!!お礼させてください!!って、さっき勇者とか言われてましたよね?もしかしてあなたが噂の勇者様なんですか?!」
……なんだこいつ。
……とりあえず元気そうで何よりだけど。
視界がキラキラでいっぱいで、心臓もバクバクで大変なんだが?!
「あの……どいてくれないか?」
「あ!!すみません。押し倒しちゃって。でも僕すごく感動しちゃったんです!!あなたがすっごく強いから!!それでお名前!お名前を教えてください!!」
ここは、あれか?名乗るほどのものではないとか言っておけば
「お名前!お名前!お名前をお教えください!!とっても強い、勇者なあなたのお名前を!!」
大分うるさい。それに勇者だとばれている時点で十分身バレしているのでは?
俺はため息をついてから諦めて答えた。
「アキレア。」
「はい!!アキレア!!覚えました!!」
本当の名前じゃないけれど、俺は今、勇者アキレアなのだから嘘でもないだろう。そう思うのに、名前を名乗った時、ほんの少しだけ胸が痛かった。
ぴょんぴょんと俺より頭1つ分くらい小さい少年は跳ねまわる。
しかも俺の周りをだ。なにこれ。フワフワのウサギっぽい。
「アキレア!ありがとうございます!!面倒ごとは起こしたくなかったので助かりました!!」
「それは何よりだな。」
「アキレアはとっても強いんですね。僕もアキレアの隣で戦えるように頑張ります!!」
少年がそんなことを言う。勇者の隣で戦いたい……か……。
「じゃあ頑張れよ。アストロン。」
そう言ってやればアストロンは嬉しそうに
「はい!!頑張りますね!!」
と目を輝かせた。
次の日の授業の手合わせで、アストロンは軽々といじめっ子たちを叩きのめしていた。
「わー!強いね、あの転入生。」
「……俺の助け、いらなかったのでは?」
授業の後アストロンは良い笑顔で俺の元にやってきた。
「僕、結構強いんですよ。本当に、君の隣に立つからね!」
「お、おお。」
俺は少しアストロンに気圧されていた。
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