冷たい目の聖者
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魔王は本気で戦う気は無いようで、基本的に俺達の攻撃をよけていた。
アストロンと視線を交わして、息を合わせて魔王に肉薄する。キンと剣が交わる。そのことに驚いた。
「お前、剣なんて持ってたのか。」
「喜ぶと良い。俺に剣を使わせたのだからな。」
どうやら使うつもりが無かった剣を引っ張り出せたようだ。俺とアストロンは2人で魔王に次々と斬りかかる。魔王はそれを剣で弾くが、その表情からは余裕が少し消えている。
そうだ、俺とアストロン、2人なら、魔王を倒すことだってできる!
「切り裂け!氷の刃!!」
俺達を援護する形でホワイトレースとアキレアが魔法を使ってくれる。ライもマジックアイテムを使ってバフをかけたりしてくれている。
「貫け!光の剣!!」
アキレアが魔法を放つ。そうだ。こうやって戦闘をして、アキレアが止めを刺してくれれば――――
「「「!!」」」
「「?!」」
急に横にいたアストロンが地面に膝をつく。
後ろからはホワイトレース!と叫ぶアキレアの声がする。これは……。
「はぁ。俺としては勇者とは一対一で向き合いたいのだがな。五対一とは些か多勢に無勢じゃないか?」
魔王が悪のオーラを使ったらしい。
「っ!!」
状態異常回復の魔法をアストロン達にかけようとした瞬間、魔王が動く。俺ではなく、この場に立っているもう一人、アキレアの元にだ。
「ひっ!!」
「魔王!!っフリージアから離れろ。」
魔王を目の前にしたアキレアは涙目だ。膝は笑っているし、口からは短い悲鳴が漏れている。それでもアキレアは地面に膝をつくホワイトレースを庇うようにして、そこに立っていた。
「聖者の癖に、俺に本気の殺気を向けたな?」
「っ!」
「初対面の俺を殺そうと思ったな?」
「魔王!フリージアから離れろって言っているだろう!!」
アキレアと魔王の間に剣を持って割って入る。魔王は剣をよけるために少し後退って、俺とアキレアを見た。そしてアキレアを見て、目を細め
「冷たい目をしている。お前のような聖者は、いらない。」
低い声でそう言った。後ろでアキレアが息をのむ声が聞こえる。
怖い。確かに怖い。けど、
「アキレアに手出しはさせない!」
臆病かもしれない、だけど飛び切り優しい片割れを、俺は守るんだ。
魔王は今度は俺に目を向けて、鋭い視線を緩める。
「お前は、優しいな。」
「何を」
「お前が俺の運命だとしたら、世界はきっと、俺に生きろと言っているんだ。」
「っ!」
自分でも動揺したのが分かった。
世界が生きろと言っている。それは本来、どの生命にも当たり前であるべきことだ。だってこの世界に生まれたのだから。けれど、けれど魔王は――――
(勇者に殺されるべき存在。)
神が、魔王を殺す存在を作り出した。それは、角度を変えれば世界に生きるなと言われているようなものじゃないか。動揺する俺を見て魔王は口元を緩めた。
「今日はここまでにしておこう。」
魔王はそう言うと、何の技を使ったのかその場から消えてしまう。
悪のオーラの影響がなくても、威圧感というものは凄まじいもので、俺はその場にへたり込んでしまいそうだった。
「っ。ひっく。」
けれど、後ろから聞こえてきた泣き声に慌てて振り返る。
「フリージア?大丈夫?」
アキレアは声を抑えながら泣いていた。俺だってあそこまで本気の魔王に殺気をぶつけられたことはない。自分に向けられたものでなくても、あそこまで恐ろしかったのだ。直接ぶつけられたアキレアは相当恐ろしかったに違いない。
「聖女様……。」
アキレアの涙を拭ってやっていると下から声がかけられる。未だに地面に膝をついているホワイトレースが、必死でアキレアの服の裾を掴んでいた。
「守ってくださって、ありがとうございます。」
「っ!」
そうだ。アキレアは怖かったはずだ。恐ろしかったはずだ。
けれどそれでも、ホワイトレースを守ろうと、彼女を庇うように彼女の前に立ち続けたのだ。
それはとても、勇気がある行動じゃないだろうか。
「ああ、そうだ。ごめんな。」
それから俺はホワイトレースを見て、状態異常回復の神聖魔法をまだ使っていなかったことを思いだした。
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