あべこべの印象
「何か見つけた?」
「い、いや!特には……。」
後ろからアストロンに話しかけられて驚いてしまう。
「アストロンは?」
「うーん。さっき、魔王城は想像しているような勇者を迎え撃つ城ではないのかもしれないって言葉を見つけたんだ。確かに今回の魔王も城じゃなくて、普通の家とかに住んでるかもしれないし、そう考えると魔王の城は普通の一軒家の可能性もあるなって思ってね。」
確かにそれだと魔王城を探そうとしても、魔王城が見つからなそうだ。
「俺の方も興味深い文章を見つけたよ。」
ライが俺達に近づいてきて言った。
「魔王は悪のオーラを意識して操ることもできるし、無意識で抑えることも出来るって。悪のオーラを作り出すことは止められないけど、世界中の悪のオーラを操って、濃度をいじれるのだとしたら……。」
「濃度をいじれるのだとしたら?」
「濃度が低い場所……。村とか町とかに魔王がいないってわけじゃないってことだよ。」
それはつまり、普通の人として村とかに住んでいる可能性があるってことだろうか。
「それに特に今回に関しては、俺は自分で魔王だと名乗ってオーラを使ってもいる。確かに偽装くらいは出来るな。」
「そうだな、あいつ、自分が魔王って言って……。」
理解した瞬間、その場から飛び退いた。
振り返るとあの時見た魔王が口角を上げて立っていた。
「久しぶりだな、俺の運命。そう、バッと飛び退かれるとすこし悲しい気もするが」
「だからアッキーはお前の運命なんかじゃない。」
「今日はお前のパーティが全員いるんだろう?俺の本拠地探しを本格的に始めたそうじゃないか。」
アストロンを気にせずに魔王は言葉を続ける。それから驚き、様子をうかがっていたアキレアとホワイトレースにちらりと目をやった。
「初めてお目にかかる。」
魔王はアキレアを見てスッと目を細めた。アキレアはその視線を正面から受け止める。
「お前が聖女か。神が俺のために用意したもう一つ。確かに、勇者に似ているな。見目も、見に宿す神の加護も。」
魔王は一歩アキレアに近づく。アキレアはホワイトレースを庇いながら一歩後ろに下がった。
「魔王!2人に手を出すな!」
俺が叫ぶと魔王は俺の方をちらりと見た。それから頷く。
「ああ。やはりお前だ。俺はお前が良い。こんな冷たい目をした聖女よりよほど、俺を殺すはずのお前の方が優しい目をしている。」
「は?」
とりあえず魔王が俺に向き直ったので少し安心する。
「それじゃあ勇者よ、少し遊ぼうか?」
「遊ぶ?親交を深めたいのか?」
なんで唐突に友好的なんだ?と首を傾げた俺に魔王は目を丸くした。
「アッキー!こういう時の遊ぶは、大体戦闘だから!!」
ライが後ろから叫ぶように言う。
え?あ?そういうこと?確かに今の雰囲気はどっちかっていうと戦闘の雰囲気だった!
「ははは。やはりいいな。流石俺の運命。この状況からでも、戦闘以外の道があると思ったのか。」
「は、恥ずかしいから笑うな!」
顔を赤くする俺の横にスッとアストロンが立つ。手には剣を持っている。
「良いよ、魔王。遊ぼうか?手合わせしたいとか言ってたもんね。せっかくの機会だ。これをアッキーがこれ以上、お前の家を探したりしないで済むように努力するね。」
「あ、アストロン?」
なんかアストロン、目が座ってませんか?口元は笑顔なのに、目が怖いんですが。魔王はそんなアストロンを見て、笑顔を引っ込める。
「またお前か。……そうだな。軽くその努力とやらを叩き潰してやろう。」
どうやら戦闘する気満々らしい。俺も手元に剣を作り出す。アストロンへの想いを核に、勇者であるという想いで鍛えた剣。これがあれば、戦える。洞窟の中で俺達は魔王に向き合った。
魔王再登場!微妙にシリアスになりきらないのは、勇者アキレア(フリージア)がちょっと抜けているから。
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