その「こたえる」は「応える」に聞こえるんだけど
「見ろよ、アストロン!!」
ピンクや白の花畑、そして草原と森を挟んで見える海。
「本当だ。綺麗だね。」
横に立ったアストロンが同意してくれる。
「アッキーと一緒に見てるから、多分こんなに綺麗なんだと思う。」
「……きれいな景色はいつ見たってきれいだろ。」
「えー?ご飯と同じで誰と一緒かって、すごく大事な要素だと思うんだけど?」
「はいはい。」
アストロンからふいっと顔を背けて適当に受け流す。
だって、顔が熱いのだ。こんな顔、見られてはいけないだろう。あー風が涼しい……。
「ねえ、アッキー。」
「なんだアスト」
目の前が、
キラキラでいっぱいになった。
それからふにっと唇に柔らかい温かさを感じる。
何が起きたのか理解できずに固まる俺の目の前で、アストロンが頬を赤くして微笑んだ。
「アッキー。僕、アッキーのことが好きだよ。世界中の誰よりも、ううん、世界よりもアッキーのことを選んじゃうくらい、アッキーのことが好きだ。」
俺の頭は真っ白だった。
ただ目の前で微笑むアストロンが、甘くとろけるような笑顔で、それがきっと、この世界のどんなものよりも尊いであろうことしか分からない。
ふわっと風が吹いて塔の下から花畑の花びらが舞い上がってくる。その光景とアストロンの笑顔が相まって、もういっそこの世のものとは思えないほどだった。
「ねえアッキー。」
「っ!」
呆然としていた俺の頬にアストロンの手が当てられて驚いてしまう。アストロンの手が、俺に顔を反らすことを許さない。
「アッキーは、僕のこと、どう思ってるの?」
「ど、どうって……。」
「僕と同じ意味で、僕のことが好き?」
「ひぇっ。」
アストロンが唇を撫でながら顔を近づけてくるから思わず情けない声が出てしまう。
するとアストロンは悲しそうに眉を寄せた。
「それとも、僕のことが嫌い?こんなことを言う僕のことが気持ちわ」
「そんなわけない!!」
思わず食い気味に言ってしまう。でも、言わずにはいられなかった。
アストロンと真っすぐ向き合う形になる。
「アッキー。嫌なら嫌って言って。嫌いなら嫌いって言って。そうじゃないと僕、都合よく解釈しちゃうし、やめてあげられないよ。」
そんなのはズルい。俺にアストロンを拒めるはずがないのに。
酷い。俺の気持ちも知らずに、剣に必死に包んできたことも知らずに、俺の想いを引っ張り出そうとするなんてひどすぎる。
拒絶できなかった俺はもう一度アストロンの唇を受け入れてしまった。
「……これ、アッキーのファーストとセカンドキスで良いんだよね?」
「当たり前だろ?!婚約者もいない俺にいつどこで誰とキスする機会があるって言うんだ?!」
「うん!それならいいんだ。居たらちょっと面倒なことになるだけだから。」
面倒なことってなんだよ。
「それにしてもアッキーはズルいなあ。」
「は、はあ?!」
勝手に告白とキスをしてきた奴が言うセリフじゃない。
「僕に任せるだけで、アッキーは言ってくれないの?」
「うっ……。」
ここまで来たらもう認めるさ。
ああ、俺だってアストロンのことが好きだ。
今、泣きそうなくらいには嬉しい。
だけど、それを口に出してはいけない。
(だって俺は今、勇者アキレアだ。)
本当の俺はアッキーでも、アキレアでも、勇者でもない。
(アストロンに、俺がフリージアだって言えたら……。)
俺は首を横に振る。
言えない。
言うわけにはいかない。
言ってしまったら、魔王を倒さなければならない優しいアキレアに勇者としての責任をさらに負わせることになってしまう。
俺はアストロンと目を合わせた。
(ああ、この視線だけで、俺の想いが全部、伝わってしまえばいいのに。)
アストロンが好きだ。
でも言えない。
いつか俺が、フリージアに戻れるその日まで、この言葉を口に出すことはできない。
「ね、アッキー。そんな目で僕のこと見てると、アッキーが僕のこと、好きって言わなくても、アッキーの全部、僕がもらっちゃうよ?」
「っ!!それはダメだ!!」
いたずらに笑ったアストロンが距離を詰めてきたので、手で制する。なんか絶対これ以上はヤバい気がする。キスもたいがいヤバいんだが、もっと密着したりするようなことになれば
(俺の性別、バレるし!!)
「って、そうだアストロン!俺、勇者!俺、男!」
そこでようやく性別に思い至った俺はそう口にする。アストロンはそれを聞いて首を傾げた。
「うん?別に関係ないかな。僕はアッキーが好きなだけだよ。」
あ、そうですか。嬉しいというか、想い強いな?と言うべきか……。
「と、とにかく全体的に今は待ってくれ!!」
「今は……?」
「えっと……そう、魔王を倒すまで!!」
そうだ。魔王を倒したら、魔王を倒して俺がフリージアに戻れたら
「その時は、ちゃんと勇者じゃない俺として、アストロンにこたえるから。」
そう言うとアストロンは軽く頭を抱えた。
「ど、どうしたアストロン?!頭が痛いのか!?」
「なんでもない……。うん。」
ちらりと見えたアストロンの顔は珍しく赤く染まっていた。
少し恋愛要素を入れようと思ったら、アストロン王子が突っ走りました。私の作品の中でトップクラスに突っ走るな……このキャラクター……。
最後のアストロン王子が赤面して、頭を抱えたのはフリージアの「こたえる」が「応える」に聞こえて、現時点ですでに両想いっぽいことを察してしまったがためです。(無意識だけどフリージアもそのつもりで言っているので間違いではないです。)あとはフリージアが可愛かったんじゃないですかね。一応これ以上は突っ走らなかったので、多分王子はこれでも我慢したんだと思います。
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