花畑の時計塔
ブックマークありがとうございます。
今回から新章でして、大分話が大きく動く章です。
「おおー!」
一面の花畑に思わず声を上げる。
「花畑は他にもいろいろあるけどね。この花畑はハナシノブ科の花が多いんだよ。」
「そうなのか。」
一面に広がる濃いピンク、薄いピンク、薄紫、白が入り混じった花畑は美しい。こういう光景を見るたびに世界は美しいと俺は思い知らされるのだ。
ホワイトレースやアキレアが花畑の間の道を歩いているのを見ると微笑ましい気持ちになる。こういう光景を守りたい。でも、守るためには魔王を倒さなければならないのだろうか?
(そもそも悪のオーラって自然物にどの程度影響するんだ?)
どちらかと言うと直接的な被害ではなく、モンスターやモンスターがとりついた人や魔物が花畑を荒らすのだろうか。でも悪のオーラがなくても悪い奴というのはいる。そう考えると、魔王を倒しても倒さなくてもこの花畑が突然荒らされてしまう可能性は無くならないのだ。
「ねえアッキー!あの塔にのぼろうよ!」
アストロンが指差したのは何やら水色で半透明の塔。え?なんだあれ?
「景観を重視して作られた時計塔だよ。上に行くと鐘が近くで見れるんだ。まあ、フリージアちゃん達のことは俺が見てるから、2人で登ってきなよ。スカートで登るものでもないし。モンスターが出ても3人なら戦えるし、ナンパ男が来ても俺がちゃんと追い払うから。」
ライがわざとらしい位つらつらと口を動かす。
「え?いや、ありがたいけど」
「わーい!じゃあアッキー!一緒にのぼろう!!」
アストロンと一緒に塔に向かう。
塔の下には一応見張りのおじさんが立っていた。
「おや、坊ちゃんたち、この塔を上るのかい?」
「うん!」
「結構高いけど、階段しかないんだよ。大丈夫かい?」
「はい!大丈夫です!」
アストロンが元気に答える。勝手に答えるんだよなあ……。まあ大丈夫だけど。
「塔の上から見る花畑もきれいだよ。高いところからなら海も見えるだろう。」
「海!」
おじさんの言葉に反応したのは俺だった。いや、だって海って見たことないし。アストロンがニコニコ嬉しそうに俺を見る。
「うん。良いよね、海。じゃあ登ろうか!」
「ああ、坊ちゃんたち。」
「ん?」
「この塔は夜間も入ることができるんだけど、良かったら半年後の夜にまた来てみると良い。」
俺とアストロンは首を傾げる。おじさんは笑って
「良いものが見れるよ。」
と言った。とりあえず俺とアストロンは塔を上ることにする。
階段を競争するようにずだだだだと駆け上がる。
「流石の足さばきだね!アッキー!!」
「お前こそ!流石の脚力だ!」
一応本気を出せばお互いに跳躍してさらにスピードをあげることも可能だ。でも安全性も考え、あえて階段を一段ずつ登るという縛りをかけている。
階段の途中には一応この塔の歴史や、古くなった鐘が飾られていた。
横目でそれを見ながら駆け上がる。金属の階段や柱の向こうには透明な板が見える。どんどん高度が上がっていくのが分かる。そうして辿り着いた最上階は
「おお。」
「半屋外って感じだね。」
半屋外の広場になっていた。頭上には鐘がつり下がっている。
「わあ!!」
簡単な柵の向こうに見える景色に、俺は思わず柵に駆け寄った。
胸元辺りまである柵を掴んで辺りを見渡す。塔の上だからか、少し風があって短い髪が少し顔にかかる。
けれどそれも気にならないほど、俺は目の前の絶景に釘付けになった。
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