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次の話から新章?突入予定です。次の章は大分話が大きく動くことになる予定です。
「やあ、こんにちは。先日はありがとう。」
教室移動で1人で廊下を歩いていたら声をかけられた。
振り返ると大人しそうな上級生が……。
「あ!この前の回復室の先輩。」
「うん。あの時は回復してくれてありがとう。お礼を言いたくて……」
先輩は言いながら俺の髪を見て少し目を見開いた。花飾りに驚いたのだろうか。
「あ、この花飾りアスト……友達から貰ったマジックアイテムなんです。変でしょうか?」
尋ねると先輩はぶんぶん首を振った。
「とっても可愛いと思うよ。」
「ぐっ!」
やっぱりこの花飾り可愛いよな!!何故か誰も言わなかったから、思ってるのは俺だけかと思ってたけど、やっぱり可愛いよな?勇者の俺がこんなに可愛いものを付けていて良いんだろうか。
「それで最近調子はどう?君、勇者なんだよね。」
「あ、はい。」
「魔王の居場所とか分かった?」
「うっ……。」
魔王とはあれから一切会っていないのだ。さらに言えば手掛かりも無し。
「まあそんなに簡単に見つからないよね。」
先輩は苦笑する。確かにそんなにイージーなわけないけどな。
「い、今は俺が経験を積んで……それから、色んなものを見ようと思います。」
「色んなものを見る?」
先輩は不思議そうだ。確かに傍から見たらよく分からないことを言っているかもしれない。けれど俺には大切なことだ。
「世界をちゃんと知って、色々と決めなきゃいけないんです。」
先輩の目を見て、宣言するように言う。
先輩は目を丸くした。いや、確かに急に出会った後輩にこんな宣言されたら驚くわな?俺はここでようやくそれに気付いた。
「変なこと言ってすみません。次の授業に行くので、この辺で」
「君は優しい勇者だね。」
「え?」
先輩は優しく笑っていた。
「うん。俺も次の授業があるから。またね。」
「は、はい。」
俺は次の教室に行くために早足でその場を去った。
「もう私のことなんて忘れたのかと思ったよ。」
本を開けばクローバーが皮肉気にそう言った。
「いや、最近忙しくてですね。」
しかもこの前来たときはアキレアがいたから本を開けなかったのだ。
「まだまだ話すべき勇者や聖者の話はあるというのに。」
「まあ、そりゃそれも大事なんですけど……。」
「ん?」
「旅を始めたんです。」
クローバーが少し驚いた顔をした。
「今の世界は比較的平和そうだから、旅立ちはもう少ししてからだと思っていたよ。」
「だから多分、ここに来る頻度も下がると思うんです。過去に学ぶことは多いけど、俺は今の勇者だから。今をしっかり見て、ちゃんと決めなきゃいけないから。」
俺の言葉を聞いてクローバーはふわりと微笑んだ。
「ああ、お前は、実に誠実に勇者であろうとしているんだな。何となく神様がお前を選びたくなった気持ちが分かる気がするよ。」
「そんな大げさな。」
「いや、今を見るなんて当たり前みたいなことだろう。けれど案外それをしっかりやるのは難しい。過去にとらわれて今を見れないやつも、未来を夢見て今すべきことをできないやつもいたからね。」
それはきっと歴代の誰かの話なんだろう。
「気が向いたら来ると良い。今に行き詰った時には過去からヒントをもらうのも良いものだからね。」
俺は頷いて、とりあえず強くあろうとした勇者と聖者の話を聞くことにした。
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