無意識の同一視
ここから章を変えるか少し悩んだ部分です。でも、まだとある転換点の序章って感じなので第2章のまま続きます。
とりあえず王様に頼まれた集落を救うことができたので、土日は気ままに国の中を移動してみることにした。モンスターを倒しながらではあるが楽しい旅路だ。
なんだか知らんが王様から基本的には日帰りで!と言われたので、あれ以降泊りがけの旅はしていない。移動のスピードもなかなかで、とりあえず今のところはその日のうちに次の集落や町に辿り着けていた。
「おおー!栄えてるな!!」
「うん。王都とはまた違った栄え方だよね。ここは前の王国の首都だったところなんだよ。」
王都は城を中心として、城下町がある感じだった。新しく来たこの町は中心に大きめの商業施設こそあるものの城のような建造物はなく、町中に店が溢れて賑わっている感じだ。
「確かアキラの実家ってこの町にあるんじゃないっけ?」
ライが思い出したように言った。
アキラ、出番多いな?本当に意外と有力なところのお坊ちゃんだったのか。
「わあ!こんなにたくさんのお店……!王都でも手に入らないマジックアイテムが流通してるかもしれませんわ!!」
ホワイトレースはテンションが上がっているようだ。アキレアがそれを見て口元を緩める。
「どうですか、王子。今日はこの町を回ってみませんか?」
「そうだね。道中のモンスター退治で、国から賞金ももらってるし、今日は買い物しちゃおうか!」
こうして俺達は、本当に休日らしくショッピングをして過ごすことになった。
「わあ!見てください。マジックアイテムの装飾品です!!」
何軒目かの店にホワイトレースが駆け寄る。手を繋いでいるのでアキレアもそれに引っ張られていく。俺はそれを暖かい気持ちで見守りながら、その店に入った。
「お!綺麗な花だな。本物?加工品か?」
ライが商品を珍しそうに眺めて言う。
「本物を加工したんだろうね。本物の花に魔力付与をして、さらに魔力付与した金属やガラスと組み合わせているんだ。」
アストロンがそっと花の飾りを手に取った。俺にはよく分からないが、それが分かるアストロンはすごいと思う。
「おっ。」
少し大ぶりな淡い紫の花と黄色い花がついた飾りを見つける。
「フリージア!この髪飾りなんて、フリージアに似合うんじゃないか?」
他の棚を見ていたアキレアに声をかける。アキレアは俺が花飾りを持っているのを見て苦笑した。
「聖女に装飾品はいらないと思うのだけど。」
「でも花の飾りなら良いんじゃないか?これ、自然治癒効果がついてるし。」
アキレアの髪に花飾りを当ててみる。うん。良い感じ。
「えっと、アッキー。もしかしてフリージアちゃんのおしゃれとか、いつも手伝ってる?」
ライが少し恐る恐る尋ねてくる。
「そうだが?」
何を当たり前のことを聞いているんだろう。不思議に思う俺に対してライは
「そっかぁ。」
と静かに目を閉じてつぶやいた。
「すみません、アキレア様。」
「ん?」
「聖女様にはこちらの花飾りの方が似合うと思うのです。」
そう言ってホワイトレースが持ってきたのは小さな花がたくさんついた、濃いピンクと赤とオレンジがグラデーションになっている飾りだった。俺が選んだのと全然違うデザインに驚く。
ホワイトレースが飾りを持って近づいてくるので、とりあえず俺はアキレアの髪に当てていた飾りをどかした。入れ替わりにホワイトレースが髪飾りをアキレアの髪に当てる。
(あ……。)
かちりと、ハマるようだった。
「やっぱり!お似合いです、聖女様!!」
アキレアの髪の色に、
そのまなざしに、
その雰囲気に、
ホワイトレースが持ってきた髪飾りは誂えたかのようにぴったりだった。
(俺は……。)
手の中の花の飾りを見る。
ホワイトレースは俺を振り返って少し申し訳なさそうに笑った。
「アキレア様の髪飾りもとても素敵です。けれど、それはどちらかというとアキレア様に似合うと思います。」
「!!」
そうだ。ホワイトレースの言うとおりだった。
俺は平然を装って花の飾りを棚に戻した。
「ま、こういうのは女子の方が強いことが多いからな!」
気にすんなよ、アッキー!とライが声をかけてくれる。俺はどうにかそれに笑って応えた。
別にアキレアに一番に似合う髪飾りを見つけられなかったのがショックだったわけじゃない。
少し悔しいけれど、ホワイトレースならば仕方ないとも思う。
ショックだったのはそこじゃなかった。
(俺は、アキレアに、聖女フリージアを重ねていたのか。)
存在しない俺。
いたかもしれない自分。
無意識のうちに俺はアキレアに、理想の自分を重ねて、押し付けてしまっていたんだ。
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