話は当事者からも聞くべきだ
「……。」
お婆さんの話を聞き終わった俺達に重い沈黙が落ちる。なんかすごく重めの恋愛話を聞かされた気がするが……とにかくこの人の話だと、ガラスの精霊が水の精霊を殺してはいないんだろう。うん。
「それで今は、本来立ち入り禁止の山に無断で入って、美しいガラス細工を盗み、それを秘密裏に売りさばく村人たちがいるって感じかな?」
「え?!そうなのか?!」
アストロンの静かな言葉に俺は驚いた。
「その通りでございます。水の精霊様との約束で、あの山には基本的に立ち入りができないという話になっていたのに……。ガラスの精霊様の作り出すガラスが美しいからと、勝手に山を荒らす者たちがいるのです。」
「つまりガラスの精霊が人間を攻撃するのは……。」
「はい。単なる防衛手段でございましょう。」
昨日怪我した男が持っていた綺麗なガラス玉は、あの男が山から盗んできたもの……ということか。
「そりゃあ怒るよね。大切な人への贈り物が、勝手に手折られたりしたら。」
アストロンの言葉に同意する。
「とりあえずお婆さんの話は理解しました。ですがやはり、ここは一度ガラスの精霊に会ってみないといけないと思います。」
アキレアが冷静に言った。
「おばあちゃんのお話は本当だよ!!」
ここまで連れてきてくれた女の子がアキレアに少し怒ったように言った。
「ごめんなさい。疑っているわけじゃないの。ただ、話し合いをするにしても、まずは会ってみないといけないから。」
アキレアが申し訳なそうに言うと女の子は渋々納得したようだった。
「でもね……。うん。多分勇者様じゃなきゃダメだと思うの。」
「え?」
「ん?皆で一緒にガラスの精霊様に会いに行けないのかな?」
ライが尋ねると女の子は視線を彷徨わせた。そんな女の子を見てお婆さんが説明してくれる。
「精霊様は、まあ私たちのようなお仕えする一族はともかく、基本的に綺麗な心の持ち主のことしか好まないのです。」
「それなら皆良い奴だから大丈」
「確かにアキレア様はその条件にぴったりでしょうね。」
「え?」
俺の言葉を遮るようにホワイトレースが言った。
「確かに、アッキーは呆れるほど善良だから……。」
「おい。」
ライも同意するんじゃない。アキレアを見たら少し難しい顔をしてるし。お前、そう言われればそうだとか思ってるだろ?
「そ、それってアッキーがガラスの精霊の好みのタイプってことでしょ?!ダメだよ!行かせられない!!」
「うわっ!」
横からタックルするように飛びついてきたのはアストロンだ。お前だけなんか論点違くないか?!
「で、でも今集落の皆も精霊様に酷いことして、精霊様……人間が好きじゃなくなっちゃってるから……。」
女の子が俯いて泣きそうな声で言う。
つまり山を荒らされ、人間不信気味になっているガラスの精霊様はいつもより会う人間のハードルが上がっていると。そのハードルを越えられるのが俺だけだと……。正直言ってなんで俺なのかは分からない。けれど
「うん。大丈夫。」
しゃがんで女の子の頭を撫でる。
「俺、ガラスの精霊様に会ってくるよ。」
「アッキー!!?」
泣いている子どもも、勝手に悪にされている精霊様も、放っておけないだろ?勇者なら!
「話すことで救えるかもしれないなら、躊躇う理由は無いだろう?」
そう言って笑えばアストロンは唇を噛みしめながらもそれ以上俺を止めなかった。
というわけで
「じゃあ行ってくるな。」
女の子に案内してもらった山の入り口で振り返る。
「本当に大丈夫?一緒に行ったほうが良いんじゃないか?」
「一緒に行ってもいきなり俺がいなくなるんだろ?余計心配かけるんじゃないか?」
ライが心配そうにいてくれる。けれど精霊様は会ってもいい人間がいると、作り出した特殊な空間に招いて話をするらしい。周りから見るといきなり消えるようで大変びっくりすることなんだと。それに1人で行ったほうが成功率が高いらしい。
「アッキー!絶対帰ってくるんだよ!!ガラスの精霊に旦那にしてやるとか、眷属にしてやるとか言われても了承しちゃダメだからね?!」
「大丈夫。戦いに行くわけでもないんだからな。」
「でも」
「俺はちゃんとアストロン達のところに帰ってくるから大丈夫!」
「アッキー……!」
アストロンと約束してからアキレアの方を見る。じゃあ、後はよろしく!と目くばせをすれば苦笑された。なんだその表情……。とにかく俺は1人でガラスの山を登りだした。
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