山にいる精霊は悪か否か
「今後も泊まる時の部屋は難題だね……。いっそ一回帰る方が皆の精神衛生上良いのかもしれない……。」
アキレアは朝起きてもそんなことを言っていた。
「そんなに悩むことか?」
「っ!ふ、アキレアはもっと危機感を持って?!……いや、今回は私も色々危なかったのだけどね?まさかホワイトレースが部屋に突してくるとは思わないじゃないですか……。」
今、フリージアって呼びかけたよな?疲れてるなあ。……俺が知らないところで色々苦労しているらしい。
俺達はとりあえず今日山の様子を見て、一週間かけてさらに情報収集を重ね、来週の土日に精霊に相対する予定を立てた。平日は放課後にワープを使ってここに通うことにした。まだ中等部の学生なので学業優先である。それは王様も承認済みのことだ。
「王様としても帰ってきて欲しいと思うよ……。」
そう呟くライは何処か遠いところを見ている。あれか、王様はアストロンの家出でも心配しているんだろうか?アストロンは優秀な王子だって聞いたことがあるし、心配はいらないんじゃないかと首を傾げると、乾いた笑いが返ってきた。
ど、どいつもこいつも疲れてやがる……!!
とれたて玉子のオムレツは味が濃厚で美味しい。バターもたっぷり使っているようで香りも抜群だ。しゃきしゃきのサラダときのこのスープも美味い。バターロールを1口サイズにちぎりながら食べていると
「相変わらずアッキーはちびちび食べるねえ。」
とライに言われた。かじりつくのも楽しいけれど、俺はやはり1口ずつ味わいたいのだ。
「マナー的にはそちらの方が正しいのでは?」
「いや、冒険の旅にマナーはいらないんじゃないかな?僕の前だけど気負わずに適当に食べると良いと思うよ。」
ホワイトレースにアストロンが答える。アキレアが少し肩の力を抜くのが分かった。俺は気にしていなかったが、アキレアは気にしていたらしい。
(そうだよな?昨日の時点で言って欲しいよな。)
さて、山に入る正式な方法とかが無いのならとりあえず山に行って、一周して道っぽいのを探してみるか。どうしても俺はあの綺麗なガラスを踏む気になれなかった。
聞き込みをしても特に有益な情報が入らない。そう思っていると小さな女の子がやってきた。
「えっと……あの、勇者様。お話、聞いてくれる?」
「ん?」
首を傾げながら膝を曲げ、女の子に視線を合わせる。女の子はそれでも少しおどおどしながら、俺に内緒話を教えてくれた。
「あのね、みんな、精霊様を悪いっていうけど、ほんとは悪くないんだよ。」
「そうなの?」
「うん。ガラスをね、綺麗ねって見に行くだけなら怒らないもん。それにガラスを綺麗って言うと嬉しそうにするんだよ。」
「……ガラスの精霊に、会ったことがあるのかな?」
「うん!」
……ふむ。村人から聞いていた話と大分違うけど、聞いてみる価値はありそうだ。
「精霊様ね、綺麗な人のことは山に入れてくれるんだよ。勇者様なら、きっと大丈夫!!」
「そ、そうか。」
「おばあちゃんもきっと、勇者様なら大丈夫って言うよ!」
「おばあちゃんも精霊様について詳しいのかな?」
「うん!!先代の精霊様の巫女だったって言ってたよ。」
「おばあちゃんに会えるかな?お話してみたいんだけど。」
「良いよ!!」
女の子は頷くと俺の手をとる。
「アストロン、先代の精霊のことをよく知る人物に会えそうだ。」
アストロン達がついてくるのを確認して女の子についていった。
ついたのは集落の端にある家だった。
「おばあちゃん!おばあちゃんに勇者様が会いたいってー!!」
女の子がそう叫びながら家に入っていく。ほどなくして家の中から出てきたお婆さんが家に入るように言ってくれた。
「会えてよかったです。勇者様。」
お婆さんが椅子に座るように言ってくれたので皆で座る。
「勇者様に会う前に、勇者様が彼女を悪だと断じて討伐していたらどうしようかと思っていました。」
「彼女……?」
「はい。ガラスの精霊様のことです。まあ彼女と言ってもその姿をとっているだけですが。」
どうやらガラスの精霊は女性の姿をしているらしい。
「あの山は20年前までは先代の……水の精霊様がいたのです。私は若い頃、彼に仕える巫女でした。」
お婆さんは昔を懐かしむように、水の精霊とガラスの精霊について話し出した。
気になるかも?良いかも?と思っていただけたらブックマーク、評価や感想をいただけると嬉しいです!
次回もお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いします




