勇者(聖女)はメイド服で駆ける
そんなに心配しなくても大丈夫だと思っていた……時期が俺にもありました!!
「アキレア君!!」
「他の服は着ないって言ってるだろ!!?」
多くの貴族の子供が通うこの学校では更衣室も個人用のものがある。とりあえず服のサイズが合うかの確認をすることになったので、そこで女子たち用意したメイド服に着替えたんだが……。
アストロンのメイド服姿はもちろん可愛かった。きれいで可愛くてお人形さんみたいに固まって……うん、アストロンはなんか固まっていた。
綺麗系に仕上がっていたライは俺を見て
「うわアッキー?!マジで?すっごくフリージアちゃんに似てるね?!」
と珍しく驚いていた。
そして
「え?!聖女様?!」
「聖女様がメイド服を?!」
と周りはどよめくし、アキラとビリーとクリスに至ってはなんか手を合わせて拝まれた。何のご利益もないぞ?というかお前らが着るとなんかごついな?とりあえず肩のフリルはもう少し抑えたほうが小柄に見えるのでは……。
「こ、今度フリージア様のこと紹介してくれないかな?」
ビリー、それが狙いか?
「お、俺は聖女様より勇者派だからな!心配すんな!アキレアの方がむしろ優しそうな雰囲気あるぜ!!」
アキラがなんか叫んでいるが、苦笑するしかない。
「きゃー!!こんなに可愛いなんて!!」
「フリージア様にそっくりだけど、なんかにじみ出るオーラが違うわ!!」
「クールなフリージア様も綺麗だけどアキレア君の方が可愛く仕上がりそう!!」
そしてテンションバク上がりなのが女子たちだった。皆きっちり執事服を着ている。
うん!似合ってるよ?でもこっちににじり寄ってくるの止めようか?
「アキレア君!ドレスも着てみて。」
「ここは聖女に寄せる感じでシスター服もあるよ!!」
「フリージアはそんな格好してないよ?!」
っていうかなんでそんな服あるの?!
その場で服を脱がされそうになった俺はアキレアの言葉を思い出しそこから逃げ出した……のだが
(流石騎士クラス!意外とみんな速い!!)
とりあえずアキレアのクラスに辿り着く。
目を見開く魔法使いクラスの子に
「フリージア、いる?!」
と尋ねる。
「え?!今、目の前に……。」
「俺はアキレアだ!」
「ええ?!勇者様?!」
驚いてる場合じゃなくてフリージア……アキレアの場所を教えて欲しいんだが?
「あれ?フリージアさん、さっき回復室の先生のところに行ったんじゃ……」
よく言ったクラスメイト2!
「ありがとな!」
簡単にお礼を言って駆け出す。回復室か。回復室の先生は回復魔法の使い手だ。講義とか実技とかの話をしに行ったのかもしれない。クラスメイト達を撒くために人目に付かないように中庭に出て木の影を走る。メイド服の勇者……いや聖女でもどっちでもいいけど目立つからな……。俺は回復室に駆け込むと音を立てないように扉をしめた。
「先生、フ」
リージア……。
そこにいるだろう人物に呼びかけながら顔を上げると
「あ、先生は今用事で外にいってるよ?」
大人しそうな黒髪の男子生徒が申し訳なさそうにそう言った。
(フリージアいないじゃん!!)
しかし今闇雲に外に飛び出すのは得策ではないだろう。
「えっと……大丈夫かい?」
「え?!あ、大丈夫です。」
男子生徒はどうやら1つ上の先輩のようだ。前髪が長くて前が見えにくそうだった。
「えっと、先輩は回復委員ですか?」
「あ、いや、ちょっと気分がすぐれなくて」
それで回復室に来たのに先生がいなかったのか。
「じゃあ俺が回復しますよ。騒がしくしちゃったし!」
「え?!」
気分が良くないなら状態異常回復だろうか。頭痛とかだと痛みで体力が削られてる場合もあり得る。ついでに体力回復もしておこう。手を合わせて軽く神聖魔法を使う。魔法の発動に合わせて、長めのメイド服のスカートが揺れた。
「せ、聖女……?」
「え?いや俺は」
「アッキー!!」
「ふわっ?!」
いきなり回復室の扉がバーンと開かれて驚く。振り返れば俺と同じくメイド服のアストロンがそこにいた。うん。やっぱりかわいい。ってそうじゃなくて
「こ、ここ回復室だぞ!!体調悪い人もいるんだから静かにしろ!」
俺がそう言うとアストロンは先輩に気が付いたのか軽く頭を下げた。
「すみません。もう僕たちいなくなりますので。」
俺はアストロンに引かれて回復室を出た。
「アッキーが逃げたら僕がおもちゃにされるでしょ!」
「アストロンは王子だから、そこまでもみくちゃにはされなそうだが……。」
「そんな格好で学校を走り回るとか……。」
アストロンの声はどこか不満そうだ。
「に、似合ってないよな?フリージアならともかく」
「似合ってるよ?」
アストロンは何を言っているのかという風に俺を見た。
「似合ってるから良くないんだよ。アッキーが人気者になって僕に構ってくれなくなったら、僕が寂しいからね。」
「そ、そうか。」
アストロンの言葉になんだか鼓動が速くなる気がした。
「それで、クラスの女子から逃げる算段があるの?」
「あ、ああ。こういうことがあったら、フリージアのところに来いって言われてる。」
「なるほど……。」
何がなるほどなんだろうか。そう思っていると
「アキレア!!」
「フリージア!!」
アキレアが小走りで俺たちの方にやってきた。
「アキレアが私のこと探してたって聞いたから、来たよ。」
アキレアは俺を見て、それからアストロンを見た。
「とりあえず、その辺の空き教室に移動しましょう。」
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