学生生活を送りながら冒険ができるか
「で、どうしてアッキーはブロッコリーをそんなに食べてるの?」
ライがどこか遠い目をしながら呆れたように言った。
「ブロッコリーにはテストステロンという筋肉を育てるホルモンを増強する成分が含まれているらしい。俺はどうにも筋肉がつきにくいから、たくさん食べて筋肉を付けようと思ってな。」
そうだ。筋肉さえつけば軽々と敵に飛ばされることも、アストロンに受け止められることも魔王にお姫様抱っこされることも無いはず……。
「え?魔王に会ったって聞いたけど、お姫様抱っこされたの?!」
おっと、声に出ていたか。
「悔しいけどな。だから俺は筋肉をつけて軽々と抱っこされない体づくりをするんだ!!」
「どおりでアストロン王子が不機嫌なわけだ……。」
「ん?何か言ったか?」
ライが遠い目をしながら乾いた笑いを零している。何かあったのだろうか。
「アッキー!ブロッコリーが筋トレに良いとは言っても、所詮野菜だよ。筋肉にはタンパク質が大切!!体が急激な変化をすると良くないしさ、とりあえず植物性タンパク質を摂ると良いんじゃないかな。」
ニコニコと効果音がつきそうな笑顔でやってきたアストロンはドンッと俺の目の前に豆乳を置いた。
「豆乳?」
「うん!動物性タンパク質だけでなく、植物性タンパク質も合わせて摂るほうが効果が得やすいと思うんだ。で、牛乳が好きなアッキーには豆乳がおすすめかなって。」
「そ、そうか。」
別に牛乳は嫌いじゃないが、そんなにすごく好きというわけでもないんだけれども。とりあえずアストロンが持ってきてくれたことが嬉しかったので俺は豆乳を飲むことにした。
「豆乳ってたしか女性ホルモンに似たイソフラボンが」
「ん?」
「なんでもないよー。豆乳も色んな味があるから色々試してみると良いかもね。」
何故かアストロンがライの口を抑えている。疑問に思いながらも俺は豆乳を飲みほした。
魔王に出会った俺とアストロンはそのことを王様に報告した。王様は深刻な表情で頷き、至急国の偉い人の対策会議が開かれたらしい。
「それでね、流石に僕たち、まだ10代前半でしょ。」
「誕生日によって違うと思うが15だと四捨五入的には10代前半ではなくないか?」
「とにかく!魔王の拠点も分からない、当てのない旅に最重要戦力である勇者を旅立たせることなんてできないじゃん?!」
「お、おお。」
アストロンが黒板を叩きながら言った。
「国の兵士や世界中の協力も得て、魔王の拠点は探すよ。でも勇者と聖者についての言い伝えにこんなものがあるんだ。」
アストロンを見てため息をついたライが説明する。
「言い伝えですか?」
今この教室には俺とアキレア、アストロン、ライ、ホワイトレースがいる。勇者パーティメンバー候補の集いである。
アストロンがパーティメンバー入りしてるのは知ってたけど、ライとホワイトレースはどこでどうパーティメンバー候補になったのだろうか。
ちなみに先の質問をしたのはホワイトレースだ。
「うん。なんでも『勇者と聖者には世界を見せなければならない』とかいう感じの言い伝えらしいんだ。」
ライが質問に答えた。
(勇者と聖者には世界を見せなければならない?)
―――
「もちろんだとも。だからこそ君は学ばなくてはいけない。知らなくてはいけない。自分のことも、魔王のことも、世界のことも。魔王を殺してまでこの世界から悪のオーラを無くす価値があるのかを見定めなければいけないんだ。」
頭に過るのはクローバーの言葉だ。
クローバーに魔王は人型だったことを伝えても、彼は相変わらず微笑んでいた。
「世界の犠牲者にも選択肢はあるんだよ。魔王を殺すか殺さないか、世界を救うか救わないか、誰を選ぶか選ばないか。」
嫌な選択肢だなと思った。でも確かに、選択が必要なら俺達は知らなければいけないのだ。
―――
「その伝承は私も知っています。」
アキレアがライの言葉に同意するのに内心驚く。そんな伝承、知る機会ありました?!アキレアは意外と勉強家だから俺が知らないところで色々調べているんだろう。
「ですが先ほど王子殿下は勇者を当てもない旅に出せないとおっしゃっていませんでしたか?」
「そうだよ!!だから僕たちは学生生活を送りながら、この王都を中心に世界を見に行くことになったんだよ!!」
今まで黙っていたアストロンが両手を広げながら言う。
「学校に通いながら世界を見に行くって……大分無茶じゃないか?」
俺が首を傾げるのを見て、アストロンは笑った。
「ふっふっふ!心配しないでアッキー!僕が作った秘密兵器があるんだ!!」
アストロンの動きに合わせて、ライが何かを教卓の上に出す。それは光り輝く青い水晶のようなものだった。
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