なんだこの男
「それにしても俺を見ても、触れても、意図的に行っても屈しないか。流石だな、勇者。」
何がだ?!
男の言っている意味が分からずに首を傾げる。というかそろそろ無理やりにでも下りるか。着地は多分できそうだし。
「アッキーを放せ!!」
その時アストロンの叫び声が聞こえた。
「アストロン?!」
俺達を見上げるアストロンが顔を歪めて叫んでいる。
「ただの人間が、俺のすることに口を挟むな。」
男がそう言って顎をくいっと動かす。するとアストロンがその場で膝をついた。
「お前!何をした!!」
俺は剣に手をかけて男を睨みつけた。この距離なら、この男に大きなダメージを与えられるに違いない。
「いいか、勇者。これがお前と普通の人間の違いだ。俺の力を受けても屈さず、真っすぐ俺を見ることができる。流石は神が俺のために用意した運命だ。」
男の言っている意味が分からない。
これ以上攻撃をしてこないなら、アストロンの手当てが優先だ。俺は飛び上がるように男の腕の中から抜け出し、地面に着地した。男は案外あっさり俺を腕から逃がしてくれた。
「アストロン!!」
「アッキーは、1人の人間だ。お前のためのものなんかじゃない!!」
アストロンは地面に手をつきながらもそう言って、男を睨みつけていた。
「その人間が大切か?勇者よ。大切なものは強さの理由にも弱さの理由にもなる。俺の力で屈しないお前を折る理由になる。」
男が何か言っているが知るか。俺はとりあえずアストロンに怪我の回復と一応状態異常の回復の神聖魔法をかけた。
「……お前は一体何なんだ。」
アストロンが回復したのを確認して男に向き直る。少し年上か同い年くらいに見える男。でも空中浮遊に、アストロンに対しての攻撃。意味が分からない言動。なんかヤバいやつだってこと以外、確かなことがない。男をまっすぐ見て問う俺に、男は嬉しそうに答えた。
「ああ、言っていなかったか。俺こそが魔王。お前が生まれた理由だ。」
まさかとは思っていたが、マジか。
見た目からは人間か人型の魔物かの判断はしにくい。魔王がこんなところに来るなんて。でも
(魔王を倒せば、俺は、勇者でいなくてもいい?)
ここで魔王を倒せれば全てが終わるんだろうか。終わらせることができるんだろうか。
覚悟なんて全然できてないのに、手が剣に伸びる。剣に手をかける俺を見て魔王は笑みを深めた。
「今回は戦うつもりはないぞ。俺はお前が俺の家まで俺を求めてやってきて、そこで最後の戦いをしたい。まあ、その前に何度か手合わせはしてみたいがな。」
なんだその言い方。なんで俺がそこまで魔王を求めなければいけないんだ。ちょっとムッとくる。しかしそんな俺より
「なんだその言い方!!お前を倒しにアッキーが行ったとしてもな、お前を倒すためだけに行くのであって、お前を求めて行くとかのわけないからな!!」
アストロンの方が頭にきていたようだ。叫ぶようにアストロンが言った。
うん。自分より怒ってるやつがいると少し冷静になれるな。魔王はアストロンを見て顔をしかめる。
「ただの人間がいると興ざめだな。」
魔王はそれから俺の方を向いて笑った。
「またお前とは会うことになるだろう。神が用意した俺の運命。」
魔王はそう言って霧のようにかき消えた。
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