お姫様抱っこ
神聖魔法の無属性遠距離攻撃魔法は発動に少し時間がかかる。戦闘中は繰り出しにくいが、遠くからの不意打ちには最適だ。とりあえず最初の一撃で無属性遠距離攻撃魔法をぶち当てる。
それから移動中も簡単に詠唱できる魔法を連続で繰り出しながら魔物との距離を詰めた。近づくとその大きさがよく分かる。近接戦なら剣で勝負だ。魔法攻撃を叩きこんでダメージを受けている魔物に続いて剣での攻撃を食らわせる。ここからはアストロンとの連携をしながらだ。
「っ!」
魔物が大きく腕を振る。その腕がアストロンの目掛けて振り下ろされる。
「神聖魔法!!」
俺は咄嗟にアストロンの前にシールドを張った。魔物の腕はそのシールドで止められた。それにほっとした俺は
「アッキー!!」
俺に振り下ろされようとした魔物の腕に気がつけなかった。アストロンの言葉に俺はその腕に気が付き、咄嗟にシールドを展開するが
(シールドの、強度がっ……!!)
時間が足りなかったから強度が足りない。
「ぅあっ!」
直撃を避けることはできたが、衝撃をすべて防ぐことはできなかった。体が弾き飛ばされる。
軽々と飛ばされる体。受け身を取ろうにも結構な衝撃で飛ばされて風圧で手足が動ごかしにくい。この勢いで岩とかにぶつかったらヤバいかもしれない。
どうにか受け身を取ろうともがいている内に体が勢いよく何かにぶつかった。岩よりずっと柔らかい何か。木でも地面でもない……
「間に合った……。」
「アストロン?!」
心の底から安堵したような声に、俺を抱えるように受け止めたのがアストロンだと気が付いた。あの勢いの俺を受け止めたらダメージになるのでは?と思ったがアストロンは案外平気そうだ。
「アッキー意外と軽いね。」
「お前は案外タフだな。」
ここで長々話す余裕はない。すぐに体勢を整え、また大型の魔物に切りかかる。
「神聖魔法!!」
モンスターを払う神の力を剣に宿す。自分以外にも使えるのでアストロンの武器にも同じ魔法をかける。神の力を宿した剣の刀身が伸び、大型の魔物にも大きな傷を与えられるようになる。
片側から切ると魔物がのけ反り、連撃を加えるために距離を詰める必要がある。それをアストロンと両側から交互に切ることによって短時間で多くのダメージを与えることが可能になるのだ。そうして一定のダメージを与えると大型の魔物は一瞬キュッと縮んで、
「っ!!」
爆発した。どうやら魔物についていたモンスターが一気に外部に霧散したようだ。
衝撃と逆方向に進んで衝撃を減らすが、それでも体は宙に舞う。飛ばされながら魔物を見ると、モンスターが黒い靄のようになって消滅していくのが見える。そして家くらい大きかった魔物は大きめの猪くらいまで縮み、森の中に逃げて行った。一応戦闘はこれで終わりらしい。
(後は受け身を取って、アストロンの安否の確認を!!)
また受け身が難しい感じに飛ばされたが、魔物を倒した分少し余裕がある。体勢を空中で整えようとしたその時、ふわりと、アストロンに受け止めて貰ったよりも柔らかく体が何かに受け止められた。
「?!」
「ふむ。勇者教育はなかなか順調なようだ。」
アストロンとは違う、聞き覚えのない声。背中と膝に感じる手の感触。
見上げれば黒い髪の……少しだけ俺より大人びた男がこちらを覗き込んでいた。なぜだか男を見た瞬間、胸がざわつくような違和感を覚える。……というか、どうやら俺はこの男にいわゆるお姫様抱っこをされているらしい。
「うわあああ?!誰だか存じませんが下ろしてくれませんか?!自分で立てます。」
「立てると言ってもここは空中だぞ。」
「は?」
男の言葉に下を見れば、確かに地上にはまだ距離がある。……どうやらこの男、空中で俺をお姫様抱っこしているらしい。
「着地できるんで、下ろしてください。」
「せっかく会えたんだから、俺としてはもっと勇者の顔を見ておきたいんだが。」
なんだこの男。何故俺は正体不明の男に戦闘後にお姫様抱っこをされなきゃいけないんだ。せっかく会えたってなんだ。俺のファンなのか?
「えーっと……あなたは一体何者なんです?」
男を見上げて問いかけてみる。
「……ちなみにお前は俺を見て何か感じないか?」
「は?かっこいいとかそう言う感想か?見た目は良いんじゃないか?」
違和感を感じたなんて言うのは初対面で相手が正体不明でも流石に失礼だろう。そう思ってそう言えば男は一瞬呆気にとられてから照れたように笑って
「そ、そうか。ありがとう。俺もお前の見た目は悪くないと思うぞ。」
とか言い出した。
……なんだこの状況。
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