勇者と聖女の幼少期 後編
剣を訓練をして、少しずつ、少しずつ剣を振るえるようになる。
最初は剣を持っていることが負担だった体が、それを負担に感じなくなっていく。
神聖魔法で肉体強化をしているとはいえ、自分の成長を感じられて俺は少し嬉しかった。本当の勇者じゃなくても、ちゃんと強くなれるんだって思ったから。
でも先生は、俺が成長を実感するたびに少しだけ眉を吊り上げた。
(少しだけ、悲しそう?)
あんまりいい感情が含まれていない眼差し。
その中には悲しそうな気配があって、少し気がかりだった。
俺の剣の成長ぶりは結構良いものらしい。様子を見に来た父さんも母さんも目を丸くしていた。
でも俺は勇者になるんだから、勇者なんだからもっと強くならなくちゃいけない!そう思って剣の訓練を続けた。
「やはり勇者は違うな。」
ある日先生がそう呟いた。俺はそれに首を傾げた。
「先生が先生だからですよ?」
確かに俺は頑張っている……つもりだ。けれど上達が速いのは先生が良いおかげだろう。
そう思っての言葉だったけれど、どうやら先生にとっては地雷だったようだ。
「世辞などいらない。勇者というのはどういうものかと思っていたが、やはり私のような凡人が敵うものでは無いのだろう。どんなに努力しても、勇者には勝てないんだ。」
先生は俺を、睨むようにしてそう言った。その眼差しは少し悲しそうで……。
ああ、そうか。これが先生が抱えていたものなんだろう。
俺は今までの先生の態度の理由が分かったような気がした。
「先生。俺は強くなります。」
俺はあえて堂々と言った。
「俺が強くなれたのは先生が教えてくれたからだって、皆が思うくらい。」
「……は?」
「先生と俺は年が違うじゃないですか!だから単純比較はできないと思うです。その場合、俺の強さが先生の強さの証明になりませんか?!」
教え子が強かったら、その先生が強い。
そうとは限らない場合もあるだろうけど、そう思う人は多いんじゃないだろうか。
「だから先生は遠慮なく、俺に全てを教えてください!俺、上達が早いんでしょう?」
挑発するように口角を上げれば、先生が開いていた口を閉じ、ニッと笑った。
「ああ、では遠慮なく。お前に全てを教えようか。」
先生、先生。
俺、先生が先生でよかったと思うんですよ。
勇者を睨んでくれる先生で良かったんです。
勇者様って畏まられても困るし、勇者だからって期待されても困るんです。
先生がそんな感じだったら多分すごく、心がちくちくしたと思うんです。
だって、俺は、先生と同じだったから。
先生と同じだけど、勇者にならなくちゃいけなかったから。だから
「先生。」
「ん?」
「俺、強くなります。」
「ああ。」
訓練後そう言えば、先生はお前はいつも同じことを言う、と笑った。
そうです。いつも同じことを、何度でも言います。
「勇者だから強いって言われるんじゃなくて、強い勇者だって言われるように。」
先生が少し目を見開いた。
「勇者が理由じゃなくて、勇者だからじゃなくても強いんだって、認められるように!」
両手を広げて、大きく宣言する。見開かれていた先生の目が、細められる。
「そうだな。お前にはそうなってもらわないとな。」
先生はそう言ってほほ笑んだ。
先生は強いので色んなところに行くらしい。たまに長期間教えに来れないこともあった。
そんな時は俺もアキレアと一緒に魔法の勉強をした。フリル様は王都に住んでいるので長期間来ないことはあまりない。
「聖女と勇者って本当に魔力が同じなのね。使える魔法も覚える順番が違うだけで、最上級魔法以外は同じだって言うし……興味深いわ。」
……大分研究対象として見られてる気はするけれど。
フリル様のおっしゃる通り、俺とアキレアの覚える魔法は順番はバラバラだけど同じものだった。これからもそのはずだ。唯一の例外にして一番の問題なのは最上級魔法。勇者は魔王を倒す魔法を、聖者は癒せない傷を癒す魔法を覚えるらしい。そこをどうごまかすかが一番問題なんだよなあ……。
1歳年下のホワイトレースはだいぶアキレアに懐いているようだ。ニコニコとアキレアとお話をしている。
「私も全属性の魔力を持ってるから聖女様と一緒にお勉強できます!」
出会った頃よりおしゃべりも上手くなっているなあと内心感心する。
「力任せに爆発させるのも良いですが、より敵を抉るなら魔力を尖らせて傷口を深くする方が有効な気がするんです。」
小さな女の子が可愛いアキレアとお話してるのは目の保養だと思う。
ん?アキレアと俺は見た目が一緒だからナルシスト?見た目が一緒でも、ほら、こう、にじみ出るものが違うだろ?アキレアは可憐でお淑やかな雰囲気だ。聖女らしくって可愛いだろ!
微笑ましいなあと思ってみていたらアキレアに微妙に呆れられた目で見られた。え?なんで?
「とりあえず魔力で剣をイメージして出来たのがこの剣です。」
ほのかに金色に光る剣は神聖魔法で作り出したものだ。先生がいない間にフリル様達と一緒に作り出した。先生は興味深そうにその剣を見ていた。
「では本日からはその剣で訓練だ。」
「はい!!」
魔法で作り出した剣は、まるで自分の体の一部のように動かすことができた。元が自分の魔力だからか重さも感じない。最初はその感覚に戸惑いもしたが、慣れればこれほど使いやすい剣はなかった。
斬りたいと思えば石も斬れたし、斬りたくないと思えば紙一枚すら斬れなくなった。
先生はそれに少しだけ眉を顰めたが
「勇者なら大丈夫か。」
と呟いた。
「そう言えば先生は今回はどこに行ってたんですか?」
先生は任務で魔物と戦って来ることが多い。今回はどんな任務だったのかと尋ねてみる。先生は微妙な顔をして
「いや、今回は城に呼ばれただけだ。」
と答えた。一応勇者と聖女として王様に顔を見せに城に行ったことはあるが、あまり記憶にない。
「王子の剣の先生は、私の先生だった人なんだが……。」
王子も剣の訓練をしてるのか。それも先生の先生に教えてもらうとは……。
勝手になかなかやるな!と心の中で感想を言う。
「私は裏表がないから城で働くのは向いていないと、先生にも王子にも言われた。」
「裏表はない方が良いのでは?」
「……お前も城勤めは向いてなさそうだな。」
先生は俺を見て苦笑した。
……王子の話題がうっすら出てますが、私の書く王族(特に王子とか姫とか)ってあんまりまともじゃないような気が……。
気になるかも?良いかも?と思っていただけたらブックマーク、評価や感想をいただけると嬉しいです!
次回もお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いします。