大型の魔物
モンスターにとりつかれた大型の魔物が暴れています。大型の魔物自体は悪いものではないです。
最近両親の雰囲気が少し重い。いや両親だけじゃなく、周りの雰囲気が全体的に少し重い。
「最近なんか大人たちの雰囲気が暗くないか?」
「ああ……。最近モンスターが活性化しているみたいだからね。」
アストロンもどこか暗い顔をしてそう言った。
「モンスターが……。」
「うん。魔王の力も増してるんだろうね。」
そういえば魔王は俺たちより少し前に誕生したんだったか。魔王も俺たちのように成長しているのだろう。それが植物でも魔物でも、動物でも。
「俺たちも強くならないとな。」
食堂で唐揚げを頬張りながら俺は決意を新たにした。
そんな会話をした数日後のことだ。
「ま、魔物が!!大型の魔物が近くの森で暴れている!!」
この辺りに出るのは基本的に小型の魔物や動物、モンスターだ。どれも小さくてあんまり強くない。モンスターがとりついている数自体も少なめで、害があるものも少ないらしい。
実戦練習などでモンスターにとりつかれた魔物や動物を、あれからも相手にしてきたけどそこまでヤバそうなやつはいなかった。けれど
「大型の魔物が!?」
先生が叫んでいる。皆が恐怖に顔を引きつらせる。大型の魔物なんて、この辺りでは見かけることすらないものだ。しかも暴れているということはモンスターがとりついているんだろう。
「生徒は避難を……」
先生が何か言っているが、俺はそれをしっかり聞くことはできなかった。
胸の中に抑えられない衝動がある。
片割れに役割を交代しようと言った時、アストロンを初めて助けた時、あの時と同じように。
「アキレア?!」
「アッキー!!」
先生やライが名前を呼ぶのを無視して走り出す。
俺は勇者だ。いつか魔王を倒さなければいけない勇者なんだ。
この世界を、皆を守るために勇者になった。
だったら俺が、皆を怖がらせる魔物に立ち向かわなければいけない。
「アッキーは本当に、眩しいよね。」
「そんなことないぞ。」
お前の方がよっぽど眩しい。走り出した俺に驚かず、すぐに後をついてきてくれたアストロン。身長差があるのが悔しいけれど、隣にいてくれてこれほど頼もしい人物は他にはいない。だったら、きっと、大丈夫。俺はアストロンと一緒に大型の魔物のいる森に向かった。
「!!」
森を見下ろせる高台の上、大型の魔物の姿はそこから確認できた。
「大きいね……。」
家と同じくらいの大きさの魔物は周りの木をなぎ倒しながら進んでいる。その目は何処か淀んでいるようにも見える。とても正気とは思えない。
「これ以上被害を出すわけにはいかない……。」
俺はそう言いながら剣を抜いた。
「ねえアッキー。多分ある程度したら騎士団がくるよ。集団で戦って多分あれも倒してくれる。それでもアッキーは行くの?」
「ああ。」
「怖くないの?」
アストロンの声はほんの少しだけ震えていた。
そうだ。怖いに決まっている。まだ中等部の学生だ。
怖くない、なんてことはなかった。
「怖いに決まってる。勇者だって怖いんだ。それでも俺は、……皆を守るって決めたから。」
俺の声だって震えている。手だって今にも震えだしそうだ。でも、頑張らなきゃ。
だって俺は勇者になると決めたんだから。
「アストロンは待ってると良い。王子様に何かあったら大変だしな。」
自分に何かあるより、俺はアストロンに何かあるほうが嫌だった。だから少しだけ、行かなきゃいけないという空気を和らげるために俺は笑って言った。
「嫌だ!!」
普段温厚なアストロンの叫び声に驚く。
「君が行くなら僕も行く。王子だからとかじゃなくて、僕が行きたいから。僕が君の隣にいたいから行くんだ。」
アストロンはそう言って剣を抜いた。
これは、何を言っても一緒に来るんだろうなあ。
アストロンが怪我をするかもと考えたら怖いけど、それでも俺はアストロンの意思が嬉しくて仕方なかった。
「じゃあ、行くぞ。」
もう手も声も震えることはなかった。
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