戦いの訓練
剣術の訓練の時だ。
「あれ?アストロンの剣、いつもと違うな?」
アストロンはいつも高い訓練用の剣を使っていたはずだ。しかし今彼の手に握られている剣はいつものものと違った。アストロンはふふっと笑う。
「気付いた?これは王家に伝わる剣、ミルフェールだよ!」
「なんか美味しそうな名前だけど。」
「ええええええ?!ミルフェール?!あの今の王家に代々受け継がれているという国宝の?!王が変わるたびに王族の魔力をこめて剣を打ち直すことによってすごい魔力を帯びた剣に仕上がっているという逸品!!しかも王家の血をひくものにしかその真価を引き出すものはできないと言われているあの?!」
どこで聞いていたのかブラックがなんか叫びながら近づいてきた。ライが静かにその言葉を肯定する。とにかくすごい剣らしい。
「お父様が僕が魔王退治の旅に出るって決まったから、譲ってくださったんだ。旅立つ前に使い慣れないといけないしね。」
「確かに武器はしっかりと慣らしたほうが良いからな。」
俺は頷く。魔王退治……。魔王討伐に色々と思うことはあるが、とにかく強くなることは間違いじゃないはずだ。いざという時に力が足りなくて後悔はしたくない。逆に力があっても使い方を間違えなければ大丈夫なはずだ。強くなることに迷いはない。
「そう言えば剣って打ちなおしたり、なんかこう、鉄を折りたたんで伸ばしたりするよな。」
「そうだね。」
「鍛造だね!鉄をドロドロに溶かすのは大変だから鋳造は不向きなんだよ!アキレア君の魔力の剣は素材が魔力だから鋳造的な作りなんだろうけど」
「ブラック!!」
俺とアストロンの会話に入ってくるブラックをライが必死でとめている。別に入ってきても良くないか?クラスメイトなんだし。ほらアストロンも笑ってるぞ?
(魔力で剣を鍛造するって可能なんだろうか。)
魔力を剣の形にして作る剣は素早く作ることができるのが利点だ。同時に作り出して投げナイフのように使うことも出来る。先生にやって見せたら苦笑いされたけど……。
手に持って戦う一本の剣。それならしっかり作りこんでみても良いかもしれない。俺は一人で頷いた。
勇者と聖女の魔法は神聖魔法。勇者と聖女以外には使えない。その神聖魔法は最上級魔法以外は共通の内容だ。覚える順番には個人差があって、俺が身体強化を早く覚えたのに対してフリージアは回復魔法を早く覚えていた。
「回復魔法……傷を見るのがつらいんだが。」
「モンスターを倒すのは良いのに?」
「血を見るのとかが苦手なんだ。……モンスターに取りつかれたやつは倒したら無害になって逃げていくし、純粋なモンスターは血とか流さずに消えるし……。」
「倒すのは良いけど、回復させるのは苦手?」
「傷を見るのが苦手なんだな。見てるだけで痛い気がする。」
中等部に入ってから回復魔法の実践を始めた俺は、傷を見るのが苦手だった。やり方とかはアキレアと教えあっていたから知っていたが、実践はやはり違う。一応できるにはできるし、以前アキラの怪我を治してやったこともあるのだけれど。
「というか俺だけ不公平だろ。フリージアも少しは剣術とか練習してみろよ。」
「えー……。あんまり得意じゃないんだけど。」
「剣を持つ力が足りないなら短剣とか細身の剣とか。」
俺は声を潜めて言う。
「勇者の最上級魔法がどんなものか分からないだろ。魔王を倒す魔法が物理攻撃に対するバフとかだったらどうするんだよ。」
「うっ。確かにそれだと物理攻撃を何か覚えておかないと詰むね。」
アキレアはうーんと物理攻撃について考え始めた。
「まあ、剣とかだったら教えるぞ。他にも槍とかも一応できるし。」
「うん。ぼちぼち考えてみる。」
アキレアにはまだ、魔王が人間かもしれないということは伝えられていない。アキレアに悩んでほしくないという気持ちもあるけれど
(きっとこれは、俺に勇気がないからなんだろうな。)
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