間話 王子の憂鬱2
王子にも色々悩んでいた時期はあったようです。
アッキーはとっても強くて、綺麗でかっこいい。
「あー……アッキーかっこいい。」
ため息交じりに漏らせばライに呆れた顔をされた。
「憧れるのは勝手ですけど、あんまり過度な期待を寄せないであげてくださいよ。」
「うん。」
大丈夫。アッキーは僕に鮮やかな世界を教えてくれた憧れの人。だけど彼に天才的な力とかを求めているわけじゃない。彼を支えられるように、彼の隣にいられるように、僕の目標にするだけだから。
アッキーと出会って世界が鮮やかに見えるようになった僕は色んなものに興味を持つようになった。
小説に載っていた子どもたちと同じように駄菓子屋に行ってみたくて、ちょうど定年で退職する馴染みの侍女長に頼んでみると、喜んで駄菓子屋を開いてくれた。お父様とお母様も公認の、僕でも行ける駄菓子屋はこうしてできた。
アッキーは僕の憧れ。強くて、綺麗で、かっこいい。なのに、ちびちびとお菓子を口に運ぶ姿だとか、授業の手合わせの後に表情をほころばせて僕の方にやってくる姿だとか、
(どうしてかわいいって思うんだろう?!)
僕は1人で頭を抱えた。
アッキーは憧れだ。憧れの人のはず。なのに、最近どうもそれだけじゃないみたいなんだ。ただの憧れなら、目標にしているだけでいいはず。
それなのに、最近僕は彼に触れたいと思ったり、ずっと傍にいたいと思ったり、他の誰にも彼の隣を渡したくないって思ってしまうんだ。
(これはきっと、ただの憧れじゃない。そしてきっとただの友達に抱く感情でもない……。)
胸が苦しくて、息がしづらい。
それはライが席を外していた時のことだった。放課後の教室でアッキーが牛乳を飲んでいた。
「アッキーってよく牛乳飲んでるよねー。」
「牛乳は良いぞ。ホエイタンパク質とカルシウムが摂れる。体づくりに持ってこいだ。骨密度を上げておかないと魔物に攻撃されたときに骨が簡単に折れるだろ?」
「うーん。僕としてはヨーグルトドリンクの方が好きかな。」
「それも良いと思うぞ。牛乳の栄養素も摂れるし、さらに乳酸菌も摂れる!」
ナイスチョイス!アッキーが笑う。僕はそれに苦笑した。アッキーは強くなることを考えているんだな。まっすぐに、強さを求めているんだな。
「アッキーは強いよね。」
「そうか?」
「そうだよ。魔王を倒しに行くことを、ちゃんと考えてる。」
ああ、やっぱりアッキーは純粋で眩しいや。
ぐちゃっとした君への想いで強くなりたいと思う僕とは全然違う。
「俺は勇者だからな。」
まっすぐ、ゆっくり、そう口にするアッキーに僕は問いかけていた。
「どうして?」
「ん?」
「どうしてアッキーはそんなに魔王を倒したいと思ってくれるの?」
魔王を倒すことは勇者にしかできないけれど、どうしてここまで一生懸命になれるのか、僕には分からなかった。怖いことも辛いこともきっとあるだろう。なのに、どうしてこうも、自分は勇者だからと前を見ることができるのだろう。
アッキーの答えを促すように首を傾げる。
最初不思議そうな顔をしていたアッキーは、ふと真剣な表情を浮かべた。それから少しの怯えと不安が垣間見える。
僕は表にこそ出さなかったが、内心酷く驚いていた。あの強くて綺麗でかっこいいアッキーが、勇者のアッキーがこんな表情をするなんて。その表情をさせているのが、僕の質問だなんて。
アッキーが僕に体を近づけて、口を開く。アッキーの声は小さかった。
そしてまるで罪を告白するかのように、小さく震えていた。
「俺はいつか、勇者としてではなく、一人の人間として生きていきたいんだ。」
僕はその言葉を聞いて息をのんだ。アッキーの表情は不安げで、もしかしたら泣いてしまいそうなそれだった。
でも、彼が言ったことは罪でも悪でも何でもない。当たり前のこと。望んで当然のことだった。
(アッキーはどこまでもきれいだね。)
「うん。それは良いね。僕も見てみたいな。勇者じゃないアッキーのこと。」
僕は、彼の願いを叶えようと思った。
彼の願いを叶えたいと思った。
「ああ、いつか、魔王を倒したら。」
「そうだね。いつか魔王を倒したら。」
光が差し込み、カーテンがなびく教室。
西日に照らされた君があんまりにも儚げに笑うから、
僕は自分の想いを否定することをやめようと思ったんだ。
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