勇者アキレアの隣
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この話で一段落というか、第1章終わりな感じなつもりです。
「わあアッキーどうしたの?唇、血が滲んでるよ?」
「ああ、昨日噛んじゃって。」
アストロンが顔を覗き込んできてそんなことを言った。
「なんだっけ、あれ……保湿とかするクリームとか塗ったほうが良いよ。」
「リップクリーム?」
「そうそれ!!」
「未使用のがあるから使いなよ。あげるからさー。」
ライがそう言って何か小さな容器にはいったクリームを取り出した。なんでこいつこんなもの持ってんだ?
「別にいらない。」
「じゃあライ、俺にちょうだい。」
アストロンがライの手からリップクリームをとり、その中身を適量指ですくった。
「はい。アッキー、唇だして。」
「は?!」
「だってアッキーいらないっていうから。ダメだよ?体の小さな傷も、旅では危険に繋がるんだから!!」
そ、そう言われるとそうかもしれないが、塗ってもらう必要性は
「はい!唇の端から端まで塗っちゃおうね~。」
「む……。」
一瞬のスキをついてアストロンは俺の唇にクリームを押し付けた。そして楽しそうに丹念にクリームを塗っていく。止めろと言いたくても唇にアストロンの指があってうかつに口を開けない。
「ふふふ~。表面カサカサ~。」
うるさい。気を付けてなくて悪かったな。
そう言うアストロンの唇はしっかりケアされているのかツヤツヤしていた。そう言えば上流貴族説があったな。お坊ちゃんだからしっかりケアもしているのか。何かそう考えると悔しいな。
唇にクリームを塗られながら、アストロンの唇をじろじろ見ていたら、グッと少し強めに唇を押された。その衝撃に意識がアストロンに移る。アストロンはニッと口の端を吊り上げて
「でもちゃんと柔らかいね!」
と、もう一度俺の唇をふにっと指で押した。そしてやっと指を離した。
「なっ……」
なにするんだお前!!叫びたいけど叫べない。アストロンはなにやらニコニコとしている。
「うん。少しは元気になった?」
「は?」
「だってアッキー、浮かない顔してるから。」
どうやら気遣ってくれていたらしい。
「……そう言うアストロンは、どちらかというと上機嫌そうだな。」
「うん!やっと上手くいったから。後でアッキーにも詳しく説明するね。」
アストロンはそう言ってウインクをする。今説明しろよと思ったが口に出す前に初等部卒業の会が始まってしまった。
(まあ後で詳しく説明するとか言ってたから、この会の後で説明するつもりなんだろう。)
そんなことを考えながら先生たちの話を聞く。エスカレーター式なので学年の大半は持ち上がりだし、そこまで涙の卒業式というわけでもない。
「あー。中等部からはもう少し階級などを理解した上での、行動をとってもらいたい。」
先生がそんなことを言って一つ咳払いをした。
「実は諸事情から初等部では身分を隠して、学校に通っていた方がいらっしゃる。」
そんな奴がいるのか。俺の知ってる奴だろうか?
「それでは、その方からお言葉をいただきます。えー……よろしくお願いします。王子殿下。」
「……は?」
そうして壇上に現れたのはふわふわの銀色がかった金髪に、キラキラの瞳。
「はい。実はそう言う立場でした。アストロンです。」
アストロンは壇上の上から確かに俺に向かって笑った。
「というわけで、僕、実は王子様だったんですよね。」
目の前にはニコニコしているアストロン。いや、アストロンと呼んで良いのか?王子殿下?一緒にいるライは驚いたふうでもない。
「もしかしてライは知ってたのか……?」
「流石に王子様を1人で学校には行かせられないからね。」
それで大臣の息子を一緒に通わせるか?
「えっと、それで俺……いや私か?は王子殿下に」
「気にしなくていいよ。むしろいつもどおりが良いな。」
「でもそれじゃ示しがつかなくないか?」
「アッキーとは一緒に魔王を倒しに行くんだよ?敬語でぎくしゃくした関係っぽいのは嫌だな。」
そうだ。それだ!!俺は思わず立ち上がる。口調はお言葉に甘えてしまおう。
「そうだよ!王子がパーティメンバーになるって……つまり……。」
「うん!僕の努力が認められたってことだね。お父様を説得するのにだいぶかかっちゃったけど。」
そうか。王族の権力でねじ込んだんじゃないのか。むしろ魔王討伐なんて危険なたびに王族が来ること自体に王様は反対していたようだ。アストロンは嬉しそうにニコニコしている。
「これで少しだけホッとしたよ。」
「危険な旅への同行が決まってか?」
「もちろん。これで君の隣は僕のものだ。」
……ん?何か微妙に今寒気がしたような気がするんだが。
「僕は君の隣に立つのに相応しいってやっと認めてもらえたんだ。これからも訓練を頑張って強くなって、一緒に魔王を倒そうね。」
「お、おう!」
アストロンが俺の手をギュッと握りこんでくる。その手が、少しだけ俺の手より大きくて、なんだか胸の奥が締め付けられるような気がした。けれど
「アッキーの背中は俺が守るよ。」
なんてアストロンがふわりと笑いながら言うものだから
「こっちのセリフだな。」
アストロンを守りたいと強く思ったから、そんな感覚はしまいこんでしまうことにした。
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