聖女はタキシードで踊る
ブックマーク、評価、ありがとうございます!嬉しいです!!
「ええ!!ドレス自分たちで着たの?!」
母さんが驚愕の声を上げた。父さんも母さんの後ろで驚いている。
今日は俺達のお披露目……城のパーティーに参加する日だ。俺とアキレアはお互いに服を着せあい、なんとかきれいに着ることに成功した。
結局ドレスをアキレアが、タキシードを俺が着ることになった。少し着崩れているのを服の上から直される分には問題ないくらいに神聖魔法で色々ごまかした。神聖魔法って便利!!
(……。)
アキレアが今着ているのは、本来俺のために作られたドレスだ。白と紫のドレスは可愛くて、少しだけ、ちゃんと着てみたかった。
(いや、それはアキレアも同じだろう。)
俺が今着ているタキシードだってアキレアのために作られたものなんだ。白と赤と黄色で大分派手だけど、多分アキレアに似合うんだろうなって感じだし。
(ま!顔は同じようなものだし、どっちも似合ってるはず!!)
とりあえず俺は納得することにした。
パーティーの出席者の多くが集まってから俺とアキレアは王様に紹介してもらった。これで勇者と聖女の存在が貴族の中でしっかり認知されただろう。母さんと父さん、王様以外はほぼ全員初対面だ。
俺達の年齢で社交界デビューすることは珍しいので、周りは大人ばっかりだ。基本的に父さんと母さんが寄ってきた人たちの相手をしてくれている。
「それにしてもお二人とも美しいですな。どうですか?お二人の将来の相手は決まっていますか?」
「ははは。まだです。何しろこれから命がけの旅があるので、簡単には決められません。」
将来の相手?首を傾げているとアキレアが小声でつぶやく。
「貴族だし、確かに普通ならそろそろ婚約話も出るかもね。」
「婚約?!」
将来の相手ってそういう?!婚約って、将来結婚する相手とするものだよな?そ、そうか。そういうことも考えなきゃいけないのか。
ぼんやり頭に浮かぶのはやけにキラキラした友人で
(いやいやいや!そもそも今の俺は勇者アキレアで男なんだから、恋愛は出来ないだろ!!)
頭に浮かんだ友人の姿を打ち消すように首を横に振る。
そうだ、恋愛なんてできない。少なくとも、魔王を倒すまでは。
「そう言えば王子の婚約の話、無くなったそうよ。」
「あら?どうして?」
「なんでも王子が難色を示したとか。」
「噂では王子、想い人がいるんですって!」
「まあまあ!!その方とはどうなんですの?」
「それが、そちらは王様が難色を示しているとか。」
「あの温厚で寛大な王様が?」
「一体どんなお相手なのかしら?」
「平民とか?身分差というやつではないかしら!」
「でもそれくらいなら王様も許可しそうなものだけど。」
母さんはよそのご婦人たちと王子の恋バナで盛り上がっている。こういう時話のネタにされる王子も可哀そうだなと何となく思いながら、周りの会話に耳を傾ける。強い人とかの話が聞ければ、将来の旅の参考になりそうだけど。あいにくそういう話題は無いようだ。
「ねえアキレア、踊らない?」
そう言って俺に手を伸ばしてきたのはアキレアだ。確かにせっかく踊りの練習をしたんだし、大人たちの会話は聞いていてもつまらない。
「そうだな。踊ろうか、フリージア。」
俺はアキレアの手をとって踊ることにした。アキレアと手を握り合ってくるくると。見られているから俺が男性パート、アキレアが女性パートを踊る。注目されているし、なんか色々言われているが、集中していればあまり周りは気にならなかった。
数曲踊ると流石に少し疲れてくる。それにパーティには一応軽食も置いてある。ちょっとは食べておきたかった。
母さんと父さんに断りを入れてから軽食のテーブルに向かう。
何食べようかな。唐揚げとかハンバーグ好きなんだけどあるかな?
「アッキー!!」
そんなことを考えていると後ろから呼び止められた。
「アストロン?!」
振り返ると赤と青のタキシードを着たアストロンがいた。遅刻してきたのか慌てて服を着た感じだし、少し息が切れている。その横には呆れたような顔をしたライが立っていた。
「え?このパーティって俺たち以外にも同い年が参加してたのか?」
「えへへ。僕とライは特例だよ。諸事情で僕たちも社交界デビューが早いんだ。」
思わずアストロンと手を取り合ってしまう。意外と心細かったのかもしれない。
「アッキー、その子はもしかして?」
ライが尋ねてくる。そうだ、今アキレアと一緒だった。
「うん。俺の双子のフリージア。聖女フリージアだ。」
ライとアストロンが興味深そうに俺たちの顔を見比べた。
「勇者と聖女は双子だと聞いてたけど、本当にそっくりなんだね。」
ライが感心したように呟く。まあ、実際俺たちは顔も身長もそっくりだ。それこそ、入れ替わっても気が付かれないくらいには。
「初めまして。聖女ってことはアッキーと一緒に魔王を倒しに行くんだよね。僕はアストロン。君たちと一緒に魔王を倒せるように頑張ってる剣士だよ。アッキーの隣に立つ予定です。」
「初めまして。はい、アキレアから話は聞いています。いつもアキレアがお世話になっています。」
なんか、こう、身内と友達が挨拶するのって気恥ずかしいよな……。
「そうなの?アッキー、僕の話を家でするの?」
「はい。とってもお強いと」
「ストップ!!」
俺はアキレアの口の前に手を出して話をやめさせた。
「えー?もっと聞きたいな。」
「も、もういいだろ。」
恥ずかしくてたまらない。俺は首を横に振った。
「まあいっか。アッキーから直接言ってもらえばいいし。」
「ちょ?!」
「聖女フリージア!これからよろしくね!」
アストロンはそう言って笑った。
この世界で魔王という『勇者以外に倒せない存在』と、勇者と聖者にしか使えない『神聖魔法』は明らかにチート級の代物です。神聖魔法って便利!
気になるかも?良いかも?と思っていただけたらブックマーク、評価や感想をいただけると嬉しいです!
次回もお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いします。