成長
「アッキー!!」
アストロンが手を振りながら挨拶をしてくる。そろそろ騎士学校の初等部も卒業が見えてきた。まあ、俺やアストロン、ライはエスカレーター式に上に上がるだけだが。
「……。」
「どうしたのアッキー?なんか不満気だよ?」
「頬をつつくな。」
いつの間にか俺より頭一つ小さかったアストロンは同じくらいの身長になっていた。
「アッキーは最近身長が伸び悩んでるからねえ。牛乳毎日飲んでるのにね。」
「ライ!」
俺をからかってくるライは俺やアストロンより背が高い。
「そう?人間は身長じゃないよ。」
慰めるなアストロン。虚しくなるだろ!最近身長伸ばしてるやつが言うことじゃないんだよ!!
そう思いながらアストロンを見返す。ふっくらとした頬はいつの間にか、丸みを残すくらいになっていた。可愛いと言うよりかっこいいような……こういうのを端整な顔立ちとでも言うのだろうか。それに腕とか全体的に、俺より筋肉が……。
(……魔王を倒した後に俺がフリージアに戻っても、アストロンは俺を認めてくれるだろうか。)
……俺がフリージアになったら、やっぱり将来のことも考えるよな……。魔王を倒したその時、俺は、アストロンはどうなっているんだろう。
「アッキー?」
「うわっ!!」
「わっ?!そんなに驚かなくても……。」
「ご、ごめんな?!」
アストロンに話しかけられて驚いてしまった。それもこれもアストロンが成長するのがいけないと思う。
「ぼんやりして、どうかした?」
「べ、別に。」
アストロンは不思議そうに首を傾げた。
さて俺達が踊りをある程度ものにしたころ、城から招待状が届いた。なんでも勇者と聖女をしっかり紹介したいとか。普通の貴族より社交界に出るのが少し早いことになるが、特例なので仕方ないだろう。
「助けてフリージア!!」
子ども部屋に飛び込んできたアキレアが急にそんなことを言った。
「助けてって何が」
そこまで言ってハッとする。部屋の外からフリージア、つまり目の前のアキレアを探す声がするのだ。
「今度お城でパーティーがあって、そこで私たちのお披露目をするって言ってたでしょ!王様だけじゃなく、貴族の皆の前で。」
その話は先日俺も父さんから聞いたな。
「それでそのパーティーの洋服のサイズを測るって」
そこまで聞いて俺はようやく状況を理解した。
1つ頷いて後ろを向き、服を脱いで後ろに投げる。次の瞬間後ろから女の子の服が投げられてきた。それを素早く身につけて
「フリージア?どうして逃げるの?」
俺達が服を取り替えた瞬間に母さんが子ども部屋の扉を開けた。流石に服のサイズを測るために、服を脱いだら性別をごまかせない。この瞬間だけは俺達は元に戻らなければいけない。
(えっと、今はフリージア。俺がフリージア。)
「あの……ちょっと恥ずかしくて……。」
「大丈夫よ。さあサイズを測りましょう。アキレアも測ってもらうわよ。」
「は、はい、母さん!」
服をわざわざ作ってもらうなんて。一応貴族だけど俺とアキレアはまだ社交界に出ていなかったからそういう経験がほとんどなかった。中の下の貴族の我が家はそんなオーダーメイドを日頃からするような家ではないのだ。
「王家の取り計らいで、今回は王室御用達の仕立て屋さんが来てくれたの!」
母さんがそう言って仕立て屋さんたちを紹介してくれた。
王室御用達って!王家の人は何を考えてるんだ!!いや、世界を救う勇者と聖女なんだからそれくらいきれいに飾りたいんだろうか。そんなことを考えながら採寸をされる。女性が採寸してくれていたんだが、そのうちの1人が何か母さんに耳打ちをした。
「そうね。今度探してみるわ。」
「とりあえず今回のパーティー用のものはこちらで用意します。」
何の話だろうか?首を傾げていると母さんがこちらにやってきた。
「そろそろあなたの下着もちゃんと買わないといけないわね。」
その視線は俺の胸に向いていて……
「!!!」
最近なんか胸のあたりが腫れているような気がしてたけど!!
(そうだ、男女の違いの1つじゃないか!!)
咄嗟に手で胸を隠す。
「ごめんなさいね。まだ成長途中だし、とりあえず今度一緒に買いに行きましょうね。」
「は、はあ。」
俺はすっかり動揺してしまって母さんに生返事をすることしかできなかった。
とりあえずどうにかドレスは比較的露出が少ないものを作ってもらえることになった。けれど
「どうしよう、アキレア。」
「どうしようって……。とりあえず私が神聖魔法でボールみたいな物体を作り出して胸に入れてごまかすのが良いかな。」
「意外としっかり考えていやがる。いやでも、問題はそれだけじゃないんだよ。」
「ん?」
今後、男女の差がもっとはっきりしていくなら、色々とごまかすのは無理かもしれない。
「とりあえず下着はお母さんとフリージアで買いに行ってね。」
「え?!」
「流石に私、女性の下着選びには行きたくないわ。」
「うう……。」
頭を抱える俺を見てアキレアは笑う。
「とりあえず神聖魔法は物理的なものを作り出せるから、体型はそれでごまかそう。」
「その……女性特有の周期的な体調不良とかは……。」
「多分状態異常扱いだと思うし、神聖魔法で体に負荷をかけずに、かなり軽減できるんじゃないかな。確か歴代の聖女とか女勇者も旅の間そういう対処してたって記録があったはず。」
「……なんか詳しくない?」
すらすらと俺の悩みに答えるアキレア。
詳しすぎじゃないか?前もって分かっていたような……。
「私とフリージアは性別が違うからね。こういう問題が起きることは分かってたよ。」
穏やかな表情でアキレアは本のページをめくった。確かに前もって分かることかもしれないけど、それをちゃんと考えていたアキレアはすごいと思う。
静かに本を開くアキレアは本当にきれいで、麗しい聖女らしかった。
それはもう、見とれてしまうほどに。
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