魔女とは
「神聖魔法は魔王を倒しても消えるものじゃないので、訓練すれば一生役立つ技能になるよ。」
クローバーはとある代の勇者と聖者の話をしてからそんなことを言った。
その話に出てきた勇者は女性で男性の聖者と結婚したらしい。魔王を倒して悪のオーラを無くした後も、神聖魔法で色んな人を救ったという。
「それにしても何かチラチラ勇者と聖者でくっつくパターンがあるんですね。」
「そりゃあね。長い間一緒に旅をして、しかも世界でたった2人の神聖魔法の使い手。そういう感情も芽生えやすいんじゃないかな。まだ子どもな君には分からない?……君の兄弟は今の聖者……聖女なんだろ?そういう話はないのかな?」
「俺達は双子。そういう話とは無縁です。」
「ふーん?良いと思うけどねえ。禁断の愛も。」
禁断の愛って……。
「聖者がそんなこと言います?」
「聖者だからこそだよ。私たちは神から、この愛を見初められて聖者に選ばれているんだ。勇者がその勇気を見初められるように。」
少しだけ、ドキッとした。クローバーの目がまっすぐに俺を見ている。
俺は、勇者アキレアになると決めたけれど、本当は聖女で、聖女に選ばれた理由は愛ゆえなんだろうか。そうだとしたら、俺が抱くべき愛とはなんなんだろうか。
クローバーはスッと目を細めてから笑った。
「ちょうどいいから話してあげよう。君は魔女とか魔人とか呼ばれる存在を知っているかい?」
「魔女?魔人?魔物の一種ですか?」
聞いたことが無い言葉に首を傾げる。クローバーはそんな俺をおかしそうに笑った。
「知らないみたいだね。」
「むう……。じゃあ教えてくださいよ。」
「ふふ。魔女も魔人も同じようなものだよ。魔王側に付いた聖者をそう呼ぶだけ。女性の聖者が聖女と呼ばれるように、魔王側についた女性の聖者は魔女と呼ばれるだけだよ。勇者はあんまり例がないからそういう呼び名は無いんだよね。」
「……は?」
今、クローバーは何と言った?
「魔王側に、ついた……聖者?」
「ああ。」
「そ、そんなものいるわけない!!」
「初耳だったから驚いてるね?でも意外といるんだ。」
クローバーは微笑んでいる。
「聖者は勇者と一緒に魔王を倒す存在で」
「落ち着きなさい。君は勇者なんだろう。」
「っ!!」
クローバーに諭されてハッとする。
そうだ、俺は勇者だ。たとえ本当は聖女であったとしても魔王と戦うと俺が決めていれば問題は無いはず。
「まあ、君の双子に将来的に裏切る可能性が多くあるのは辛いかもしれないけどね。」
「……フリージアはそんなことしません。……でも、どうしてその魔女や魔人は、魔王側についてしまったんでしょう。」
「良い質問だ。」
クローバーは大きく頷いて指をクイッと動かした。それにこたえるように本のページがめくれる。
「聖者というものは神の愛としての役割が多い。」
「神の愛……?」
「勇者が神の勇気として魔王を倒すなら、聖者は神の愛として全てを癒すんだよ。そしてその全てには魔王も含まれている。」
「は?!」
「つまり聖者の最上級魔法は魔王にも使えるわけだ。」
つまり聖者が魔王側につくと……
「魔王の回復をしたら、すっごく魔王側が強くなりませんか?」
パワーバランス崩壊を感じる。
「そうだね。そもそも勇者以外には魔王は倒せないのに、勇者は普通に死ぬからね。」
「基本的に勇者側、圧倒的不利じゃないですか?!」
「ちなみに聖者は愛ゆえに魔王側につくことがたまにあるんだけど、その場合は8割がた魔王側が勝利してるよ。」
魔王側が勝利ってことは悪のオーラが世界に蔓延し、モンスターが湧き、人々の心も荒む世界になるということだ。そして魔王が次に誕生する勇者に倒されるまでその世界は続いてしまう。
「大体魔王側が勝つと人間側の元からある国とかは滅びることが多いね。今のこの国は3代前の魔王が倒された後にできたんだっけ。今回の魔王誕生で滅びないと良いね。」
クローバーは他人事のように笑った。
「そんなこと、俺がさせないです。」
この国には守りたい人たちがいる。
「そうだね。そのためにも学ぶことは大切だよ。」
クローバーは微笑むと、次の勇者と聖者について語り始めた。
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