聖女フリージア
大丈夫。俺は大丈夫。俺にならできる。
俺は勇者だった聖女。だからこそ、この選択をしたのだから。
「ライ。」
「はい。おそらく……」
悪のオーラの影響を受けない俺とアキレアには悪のオーラが消えても分からない。
だから、アストロンとライのその会話が、悪のオーラが消えたことの合図だった。
俺は握っていた魔王の手を離した。そしてすぐに魔王の、スキラの胸に手を当てる。
行うべきは傷の回復。それから血の補充。死んでしまっている体の再生。
「「「!?」」」
俺はスキラをこのまま死なせるわけにはいかなかった。
だって俺は世界を救いたかったけど、魔王のことも救いたかった。
世界に生きることを許されない存在なんて嫌だと思った。
アストロンの回復を最上級神聖魔法で行った時、聖女の力は人を蘇生させることができると分かった。
だったら!
(魔王が死ぬことでしか、悪のオーラが消えないなら、魔王を殺すしかない。だけど、その後蘇生してはいけないなんて、誰も決めていない!!)
悪のオーラが魔王の精神ではなく、体に基づくものだとして、悪のオーラが世界から消えた後に、その体を蘇生させるとどうなるか。分からないけど、神の加護は悪のオーラの影響を打ち消すのだ。
最上級神聖魔法に加えて状態異常回復の魔法も組み合わせて行えば、きっと。
アキレアも迷わずに膝をついてスキラに手をかざした。
そう、俺が最上級神聖魔法を。アキレアが状態異常回復の魔法を使っている。
だってアキレアは聖女だった勇者だ。俺より回復魔法の使い方は上手と言えるだろう。
アキレアにはすべてを話していた。
「魔王には、アストロンと同じ目にあってもらおうと思うんだ。」
「それは、心臓を貫いて殺せってこと?」
「うん。……それでその後蘇生する。」
アキレアは目を見開いた。
「蘇生するって、そんな……。」
「もちろん。上手くいくとは限らない。むしろ確率は低いかもしれない。」
だけど、魔王を殺して悪のオーラが消えてから蘇生させれば、その後魔王は、スキラは、普通の人間として生きていけるんじゃないかと俺は思ったのだ。
蘇生させることができると思って人を殺して、蘇生させられなかったときの絶望は、最初から死んでしまうと分かっていて人を殺したときの絶望より大きいかもしれないと思った。それでも、俺は覚悟を決めたアキレアに話して、協力してもらうことを選んだ。
「お願いだ、アキレア。少しでも成功率をあげるために協力して欲しい。最上級神聖魔法は確かに俺にしか使えないけど、他の回復魔法はアキレアの方が得意だろう?」
「まあ、今まで聖女のふりをしてきたし」
「ふりじゃない。」
「え?」
「今まで聖女は、いや聖者でもいいけど……。とにかく聖者は確かにアキレアだったよ。」
「……それなら今までのフリージアも確かに勇者だったよ。」
演じていたのだとしても、確かに俺達はそうあったのだ。
「これは入れ替わっていた俺達にしか出来ないことだ。聖女だった勇者と、勇者だった聖女にしか出来ないこと。……協力してくれるか。」
アキレアは目を閉じて、少しだけ考えた後に笑った。
「私たちはお互いに、勇者の勇気と聖者の愛を持ってる。その勇気と愛で、世界と魔王を救おう。」
勇気と愛を持って、魔王を殺して、蘇生するんだ。
もしものことがあってはいけないから、スキラには一切、助かるかもしれないなんて教えない。
まあ、アストロンと同じ目にあわせるとは言ったけれど。
(さっきまでの戦闘で魔力も神の加護も、ギリギリだ。)
最上級神聖魔法は最上級というくらいだからどうしたって魔力やら神の加護やらが多く必要になる。どうにか精神力で絞りだすけど、かなりキツイ。
魔王を貫いた剣は、……アキレアには言っていないけど、俺のアストロンに対する行き場のない恋心もたくさん込めてあった。
アストロンへの恋心で、スキラを殺すなんてあってはいけない。
そう思いながら神の加護を絞りだす。
「うん。アッキーらしいね。」
「っ!!」
思わず叫ばなかった俺を褒めて欲しい。
スキラに手を当てる俺を、アストロンが後ろから抱え込むように抱きしめてきたのだ。こっちは人の命がかかってるんだから、集中させてほしい!そう思ったが
(これは……アストロンの魔力?)
じんわりと何かがアストロンと触れ合っているところから流れ込んでいるのを感じた。
「これは『アッキーの旅を快適にする道具その2 魔力やりとりペンダント』の効果だよ。」
そのシリーズ、第2弾あったんだな?!心の中でツッコミをいれつつ、もらった魔力でスキラの傷を回復していく。
「ああ、それから。アッキーのためだから、これも貸してあげる。今だけだけどね。」
アストロンがそう言って、スキラの体の上に何かを置いた。それは
(俺がアストロンにあげた髪飾り……!)
そうだ。確か、この髪飾りの効果は、回復量アップだった。




