勇者だった聖女
ブラッディ表現とか、痛い表現が多いです。
この話だけ読むと不穏と言うか、後味が悪い感じがするので、そう言うのが嫌かなと思う方は、とりあえず次回の話があがってから、読んだ方が良いかな……と思ったりします。
心臓はバクバクうるさいし、乱れた呼吸もうるさい。その中で、力を失った魔王の体が床に転がった。
ステンドグラスを通した光がキラキラとした中で、魔王の体から流れ出た血が、床を赤く染めていく。
僕よりも息が荒く、手を震わせている少年が隣にいた。
その表情は決して、魔王を倒して喜ぶ勇者のそれではなかったけれど、僕は何も言わなかった。
僕が彼に何を言っても、彼の救いにも何にもならないことは分かっている。
キラキラした光の中、服が赤で汚れることも構わずに魔王の横に膝をつく少女がいた。
(アッキー……。)
僕は彼女がこの決断をしたのかと、本当にこれでよかったのかと、聞こうとしてやめた。
(君は、魔王を殺さない方法を探していた……。)
だけどこうするしかなかったのだろうか。
アッキーが魔王を覗き込んでいる。
色々と思うところはあるけれど、流石にこの状況で邪魔をするような性格はしていない。
ふと、体が楽になる。
「ライ。」
「はい。おそらく……。」
魔王が死んで、世界に溜まっていた悪のオーラが消えたのだと、何となく察した。
痛い。苦しい。熱い。寒い。息が、息ができない。
胸に刺さった剣はあの時、彼女が俺に突き立てられなかった剣。
それを彼はしっかり突き刺してみせた。言葉が出ない。
やっぱり、やっぱり死ぬのは嫌だった。
だってまだ、十五年ちょっとしか生きてない。もっと、もっと生きていたって良いじゃないか。あと五十年くらい生きていたって、他の人は誰も文句を言われないのに、どうして俺だけ。
転がった視界では、ステンドグラスがキラキラ光っている。そこに彼女がやってきた。
(どうして、そんなに強い目をしているんだ。)
泣きそうなのに、苦しそうなのに、彼女は確かに覚悟を決めた目で俺を見て、手を握った。
その温かさをしっかり感じる前に、俺の意識はふと途切れた。
大丈夫。俺は大丈夫。今度はできる。大丈夫だ。
魔王の胸を貫いて、アストロンと同じ目に合わせるんだ。
俺はしっかり目を開いて、アキレアとアストロンの戦いを見ていた。
アストロンがたくさん斬りつけたし、アキレアの魔法が喉も貫いている。そして、止めに、アキレアが俺の作った剣で魔王の、スキラの胸を貫いた。
貫けた。
今度は、しっかり魔王を斬ることができた。
グッと、着実に段階を踏んだことを確認して、魔王に駆け寄る。
彼は死んでしまう。だって、そうしなきゃ世界は救えないから。
どうしたって俺は、旅する中で見た世界をきれいだと思ってしまった。
救いたいと思ってしまった。
怖いものも、悪いものも見た。
だけどやっぱり、世界の仕組みを変えることができないなら、俺は魔王を殺すしかないと思った。
仮死でも良いと思ったし、他に方法がないか試したいとも思った。
だけど俺には、アキレア達の魔王討伐の流れを止められないと感じたし、
(アストロンのことがあった時に、きっと決めてしまった。)
そうだ。それから俺は、自分に言い聞かせてきた。
大丈夫。俺は大丈夫。俺にならできる。
だって俺は聖女だけど、今までずっと勇者だったから。
そんな勇者だった聖女にしか出来ないことがあると、俺は思ったんだ。
だから俺は目をそらさずに、一番近くで、魔王の命がしっかりなくなる瞬間を見届けた。




