魔王戦決着
ブラッディな表現があります。ご注意ください。
自分の意志で戦う、ある程度以上の実力を持った人間がいるのは大分面倒だった。
しかもオーラの濃度をあげても、神の加護を身の内にため込んでいるのか、上手く弱体化させることも出来なかった。
俺にとって本来聖女であるフリージアは、正しく勇者だった。
そう、勇者フリージアは、俺を殺せないこと以外は完璧な勇者だったのだ。
強く、仲間たちと一緒に俺に肉薄することもあった。だけど彼女は今、仲間たちに救助されたけれど俺に立ち向かってくるには体力や魔力が足りないようだった。
(あの拘束はそうそう解けるものじゃない。)
それを解けただけでも、賞賛に値するし、仕方が無いだろう。
本来の勇者である少年は、いつだって冷たい目をしていた。
聖女だと思って会った時から、彼は俺のことを殺そうとしていたのだ。
臆病で、聖女であるはずのフリージアを勇者にしてその影に隠れていた本当の勇者。
だけど、彼はしっかり覚悟を決めてきたらしい。
勇者として俺に立ち向かう覚悟を。
彼の魔法はなかなかのもので、俺も魔法で攻撃を仕掛けたがその全てを神聖魔法で受け止められた。目の前の王子にしている魔法攻撃まで受け止められる始末だ。
城下町での戦闘の時、フリージアは戦いながら防御していたから隙が出来たけれど、アキレアは防御に集中していたため隙がなかった。だから結局俺はフリージアを彼らに助けられてしまったわけだ。
「!!」
攻撃魔法が飛んできて驚く。向こうの魔法使いはさっき先生との戦いで大分消耗しているはずだが……。
「ああ、いよいよってわけか。」
その魔法を放った人物を見て、俺は納得した。そこにはフリージアの作った勇者の剣を持つ、本当の勇者、アキレアが立っていた。
「防御は全部、俺がやる。防御に集中できれば、アキレアと同じようにできると思う。」
「まあ俺達も補助するから。」
「とりあえず、あまり数はありませんが、エナジードリンクをどうぞ!フリージア様。」
私は頷いてフリージアから託された勇者の剣を握りしめた。
剣で戦う必要は無い。私のメインはホワイトレースト一緒に学んできた魔法攻撃。
最後の一撃。それだけを剣で行えばいいのだ。
フリージアの剣は今までフリージアが戦ってきた経験を覚えているようだった。どこに攻撃すれば効果的なのか、この剣を持つことによってそれが分かるようになった気がしたのだ。
私の攻撃は魔王にとって致命傷になるもの。
範囲が小さくても威力が高い攻撃は絶対に避けなければいけないものだ。
小さな高威力の魔法を連続で打ち込む。その攻撃を避けるために意識を逸らした魔王に王子が斬りこんだ。致命傷にならなくても、痛いものは痛いはずだ。魔王にとって王子の攻撃は死ぬことは無くても、ダメージをくらうものではあるはずだから。
しかし魔王は痛みにも怯まず私の攻撃を的確に避けてみせた。
やっぱり一筋縄ではいかないみたいだ。
覚悟はした。
こんな覚悟はきっと、正しくないんだろうけど、勇者としての覚悟だ。
希望を持った方が辛いというのはよくある話だ。
だけどたとえ裏切られたとしても、期待が外れたとしても、希望を持つことにした。
フリージアを信じることにした。
もしも上手くいかなかったとしても、私はその結果を受け止める。
その覚悟を決めた。
魔法の攻撃で魔王の急所を狙いに行く。
当たったら普通に死んでしまいそうな場所ばかりを。
それをよける魔王は、王子の攻撃をよける余裕は無くなっていく。
魔王の攻撃はことごとくフリージアがシールドで弾く。そうして、
「!!」
王子の剣が魔王の足を斬りつけたときだった。
痛くても、魔王は気にしなかっただろう。
だけど、死ななくてもダメージは受けるということは、足や手を斬りつけることによって機能を損なわせることだってできるということだった。
この隙を逃すわけにはいかなかった。
研ぎ澄ました氷のつぶてで魔王の喉を貫く。
傷としては小さいけど、場所が場所だから放っておけば致命傷だろう。
大きく姿勢を崩す魔王の懐に飛び込む。
魔王が私と私の持つ剣を見て、目を見開いた。
(ここだ!!)
私はフリージアの勇者の剣で、魔王の胸を貫いた。




