どうしてそんなに魔王を倒したいって思ってくれるの?
そうして私たちの学年が1つ上がった時、ホワイトレースが新入生として入ってきた。
「聖女様!!」
1つ下の学年だけど彼女はわざわざ私のところにやってくる。
「ねえ聖女様!私、いつか聖女様と一緒に旅に出て、魔王を倒します。」
学校に入ってから彼女とは会う機会が少し減っていた。久しぶりにあった彼女は強い意志を瞳に宿してそんなことを言ったのだ。
「魔王を倒しに行くのは楽しいものじゃありませんよ。怖くて辛くて、きっと悲しいことだってあるでしょう。無理にその苦しさに身を投じる必要はないんです。」
本当は私が嫌なのだ。怖いのも、辛いのも。
でも本当は私が勇者なんだから、本当は聖女のアキレアに丸投げするわけにはいかないし……。私の言葉に彼女は笑った。
「ああ、本当に聖女様はお優しいのですね。でも私はこの世界が大好きなんです。私の手で、この世界を救いたいのです。」
彼女は懸命にそう言った。
ああ、彼女の眼は、自分の片割れによく似ている。勇者になると言った彼女と。
ホワイトレースの決意もきっと変わらないだろう。
どうして、この世界に生きる人々は私よりも勇気がある人々ばかりなのか。
そんなことを考えながら私は答える。
「では一緒に頑張りましょう。」
「はい!これからもよろしくお願いします。聖女様の魔法ももっともっと、お傍で見せてくださいね。」
言葉の後半に熱がこもっていたぞ?世界を救うとかよりそっちが本題じゃないよね?
そんなことを思いながらも、彼女がいてくれることはとても嬉しかったので、素直に頷いた。
「アッキーってよく牛乳飲んでるよねー。」
アストロンが机に肘をつきながら俺のことを見ている。
「牛乳は良いぞ。ホエイタンパク質とカルシウムが摂れる。体づくりに持ってこいだ。骨密度を上げておかないと魔物に攻撃されたときに骨が簡単に折れるだろ?」
「うーん。僕としてはヨーグルトドリンクの方が好きかな。」
「それも良いと思うぞ。牛乳の栄養素も摂れるし、さらに乳酸菌も摂れる!」
ナイスチョイス!とグッとこぶしを作ればアストロンが苦笑した。ただしヨーグルトドリンクは甘いタイプも多いからカロリーには要注意だけど。
「アッキーは強いよね。」
「そうか?」
「そうだよ。魔王を倒しに行くことを、ちゃんと考えてる。」
アストロンは眩しいものを見るような目を俺に向けた。そのまなざしに、胸がグッと痛くなる。
これは、罪悪感だろうか。俺が本当は……
「俺は勇者だからな。」
いや、本当はどうかとかは関係ない。俺が勇者なんだから。
まっすぐアストロンを見返して、自分に言い聞かせるように口にした。
「どうして?」
「ん?」
「どうしてアッキーはそんなに魔王を倒したいと思ってくれるの?」
アストロンはゆっくり首を傾げる。
どうして?それは、勇者だからという理由だけじゃ、ダメなのだろうか。
(他に理由があるとすれば、それは……。)
……アストロンには話しても良いだろうか。俺が魔王を倒したい理由を。
ごくりとつばを飲み込む。言って軽蔑されないだろうか。
でも、俺は言いたかった。この世界で一番輝いて見える彼に。
俺は声を小さくして口を開く。
だってこれは内緒の話だ。
「俺はいつか、勇者としてではなく、一人の人間として生きていきたいんだ。」
勇者が世界を救うためじゃなくて、自分として生きるために魔王を倒したいなんて。
いけないことかもしれない。
ダメだと言われるかもしれない。
息を止めて俺はアストロンの反応を見ていた。
アストロンは俺の言葉を聞いて、一瞬息をのんだ。それからやはり眩しそうに目を細めた。
「うん。それは良いね。僕も見てみたいな。勇者じゃないアッキーのこと。」
アストロンの答えに、ようやく息ができるようになる。
アストロンの言葉に俺は勝手に救われたような気持になった。
「ああ、いつか、魔王を倒したら。」
「そうだね。いつか魔王を倒したら。」
光が差し込み、カーテンがなびく教室。声を潜めて俺とアストロンは未来の話をした。
アストロンは強かった。彼も魔法で身体能力を上げてもいるんだろうが、素早さも力強さも勇者であろうとする自分に引けをとらないレベルだ。本当に一緒に魔王を倒す旅ができたら
「楽しそうだな。」
じゃない!!楽しそうじゃなくて!
「心強いだ!心強い!!」
「なに騒いでるのフリージア……。」
「いや、旅のパーティメンバーについての考察をだな。」
アキレアは俺の話を聞いてそう言えば、と話を切り出した。
「そう言えば魔法使いもパーティメンバーに欲しくない?」
「そうだな。普通の魔法使いも欲しいよな。」
まあ勇者のパーティメンバーは勇者の一存で決められないけど。
「勇者と聖女と」
「剣士と魔法使いと」
一緒にパーティメンバーを考えていたら楽しくなってきた。アキレアも楽しそうに見える。
「ね、アキレアも楽しいだろ。」
「まあ、ちょっと楽しいけど。」
「わくわくしないか?」
「まあ、少しね。……フリージアがいてくれると安心するし」
「し?」
「……一緒に旅ができたら楽しいだろうなって人がいるんだ。」
「ああ!俺も!俺も……一緒に旅に出たい人がいる!!」
「パーティメンバーになってくれると良いんだけど。」
俺達は顔を合わせて笑いあった。
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