ねえ、私たち、入れ替わらない?
数十年から数百年に一度、この世の悪が集まって魔王が誕生する。
魔王が誕生すれば、凶悪なモンスターが生まれ、人の心は悪に染まり、この世は大いに荒むだろう。
しかし神は人間たちを見捨てなかった。
魔王が誕生するタイミングで選ばれた人間に加護を与え、魔王に抗うすべを授けたのだ。
その人間こそ、魔王を倒す力を持つ勇者と、全てを癒すことができる聖者。
今代の勇者と聖者は双子。
男の子が勇者で女の子が聖者であると、神のお告げがあった。
聖者は女の子なので聖女と呼ばれ、2人はいつか魔王を倒しに行くために修行をすることになった。……のですが
「弱虫ー!!お前なんか勇者のわけないじゃん!!」
「こんなに弱くて世界が救えるわけないだろー。」
「ぼ、僕だって好きで勇者になったわけじゃ」
「はあ?」
勇者に選ばれた少年は良く言えばおっとりしていて優しくて、悪く言えば臆病で弱虫でした。魔王を倒すどころか、旅に出るのも怖いくらい。近所の子どもに泣かされてしまうこともしばしばでした。
勇者になりたいと思う人は多くいます。でも勇者は選ばれないとなれないもの。勇者になりたくてなったわけじゃないと言う少年にムッとする人もいたのです。
「アキレアをいじめるとか、私が許さないんだから!!」
そんな少年には双子の少女がいました。彼女こそ聖女。の……はずなのですが……
「神聖魔法!身体強化!!さあかかってきなさい!!全員まとめてぶっ飛ばしてやるよ!!」
彼女は良く言えば活発で勇敢、悪く言えば乱暴で暴力的でした。双子である少年がいじめられているのを、彼女が助けることがほとんど。
少年の名前をアキレア、少女の名前をフリージアと言いました。この双子こそが魔王を倒すために神様から加護を授かった、勇者と聖女でした。
「アキレア。お前も剣を振るいなさい。いつか魔王をその手で倒すんだぞ。」
「フリージア。花言葉を覚えましょう。きっと回復魔法の助けになるわ。」
両親も国から派遣された剣の先生も、双子にそれぞれの役割に合う技術を教えようとしました。しかしどうにも上手くいきません。
夜中にアキレアは子ども部屋でしくしく泣いていました。
「魔王と戦うなんて、怖いに決まってるじゃないか。勝手に勇者だって言って押し付けて」
「魔王を倒さないと世界は救えないんだよ。それにきっと、私たちは、魔王を倒すまで勇者と聖女からは逃げられない。ただのアキレアとフリージアにはなれないんだよ。」
「フリージアまでそんなこと言うの?」
フリージアは震えながら涙を流す自分の片割れを見て、心を決めました。
「ねえ、私たち、入れ替わらない?」
「え?」
「私が勇者アキレアになる。だからアキレアは聖女フリージアになって。」
「で、でも神様は」
それは神様を冒涜することにならないか、アキレアは不安に思いました。
「きっと神様はお告げを間違えちゃったんだよ。大丈夫。勇者と聖女は最後の最上級魔法以外は覚える魔法は同じだって言われてる。神聖魔法を使える人は他にいないんだからバレないよ。」
「そうかもしれないけど」
「魔王の前に立った時にその場に勇者と聖女がいればいいんだよ。本当にアキレアが勇者なら最後のとどめだけ、どさくさに紛れてアキレアがさしちゃえばいいんだ。きっと誰にもバレっこないよ。」
「……そうかな?」
「そうだよ。」
フリージアはアキレアを安心させるために笑いました。
「聖女フリージアはこの勇者アキレアが守るから!だから明日から、私……いや俺が勇者で」
「ぼ……私が聖女?」
「うん!決定!!」
そうして次の日からアキレアは聖女フリージアとして、フリージアは勇者アキレアとして生きていくことになりました。
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