回想『きっかけなんて些細なものである』
出来るだけ毎日更新できるように頑張りたいな、と思い書いた。
恋愛ジャンルだし魔法の説明や描写はちょっと簡素にしてあるのでそのあたりのツッコミは無しでお願いします。深くは考えてるけど恋愛よりだし、あまり掘り下げない。
きっかけは数週間前の事だった。
二年に進級しクラス替えをしたばかりの頃、同じ学年の美少女二人ともを独占したうちのクラスは大いに盛り上がっていた……が、その反面、他のクラスからは大変顰蹙を買っていた。
去年までは二クラスに分散していたのが、一クラスに集まり意図的ではないとはいえ独占状態になっているのだから無理もないが。
そんな中事件は起こった、二限の休み時間に嫌がらせか分からないが、うちのクラスに炎属性の攻撃魔法を放ってきた阿呆が居た。
しかもその嫉妬にまみれた魔法なコントロールなど利いてない雑な魔法はあろうことか、話題の美少女、流雲姉妹に直撃コースだ。
「えっ!?」
魔法とは精神に作用される不安定な技術でもある、嫉妬に歪んだ魔法などそうそう狙った通りには行かないものであるし対象がはっきりしていなければ、一番執着のある双子に飛ぶのも必至、そして同様にいきなり放たれた魔法に反応して即座応戦、魔法の展開など出来る者など如何に天才たちの中でもより優れた双子と言えど無理だろう。
「風渦、水抱」
たまたま廊下で暴挙に及ぼうとしていたやつの詠唱を耳にし、なおかつ対抗できる魔法を即興で発動できたのは俺だけだったらしい。
右手で風の渦を生み出して炎を収束、左手で水の膜を生み出して包み込み消火という流れだ。
嫉妬に狂いながらも伊達に天才秀才の一員の魔法、俺程度では二つの属性を組み合わせないと相殺できなかったのだから。
万全の流雲姉なら風だけで吹き飛ばすとか出来た事だろうが、生憎俺は魔力が強くないので多属性を組み合わせて何とかすることしか出来ない、要するに特化した得意な属性もないが、不得意な属性もない。それだけの事だった。
「え、あ?」
渾身の魔法が消されたからか、呆けている廊下の下手人の背後からその暴挙を見ていた数人の生徒がのしかかって取り押さえていた、あちらは放置で構わないと判断した俺は流雲姉妹に声をかけた。
「大丈夫だったか?」
「ああ……ありがとう?」
「うん、大丈夫……」
咄嗟の事で驚いていたのか反応が鈍い。
「まあ怪我さえなければ良かったよ、それじゃ」
大人しく席に戻れば騒ぎを聞きつけた先生方が下手人を連れて行くところで俺たちは当事者ではあるもののそのまま三限の授業を受けた。
その日の放課後である、悪友でもある衛は部活があるのでそそくさと教室を後にして、教室内には俺と流雲姉妹だけが残っていた。
「えっと、蹴戸、だっけ?」
ぎこちなく空が訪ねて来た、自己紹介などは最初の頃に済ませているしつい最近だったので名前を憶えていたようだ。
「ああ、そういう君らは流雲姉妹、どうかしたか?」
お前らは有名だから知っているというていで、問い返す。
「あのね、今日午前中に助けてもらったじゃない? 私たち、君に」
次いで妹の雷が答える、助けたというほどの事でもないと思うが。
「ああ、あれか、気にするなよ、気づけていたら流雲姉がなんとか出来ていただろう。」
礼を言われるほどの事じゃない。ただのお節介に過ぎない、俺はそう思っていた。
「確かに私なら何とか出来た、だろう、けどそれでも術者だった彼や周りに何かしらの被害を出して、だ。私の風はそんなに器用じゃないからね」
「あたしの電気でも何ともできなかったよ、気づいたときにはもう魔法は撃たれてたし、術者には魔眼は使ったけど、魔法を被害なく防げたのは限くんのおかげだとあたしは思うなー」
あの時下手人が呆けていたのはそっちの能力だったのか。
というか……げんくん?
「げんくん?」
「あ、ごめんね? 勝手に名前呼びしちゃって、あたしのことも雷でいいからさ、いいかな」
「別に構わないが……」
「私も空と呼んでくれて構わないよ、私は蹴戸って呼ぶけどね」
「好きにしてくれ、それで礼を言うだけなら、別に気にしなくていいから本当に」
そう言ってさっさと帰宅しようと思ったのだが、肩をがしっと掴まれた……雷に。
「まっまっ、そういわずにー、お礼にちょっとお茶しない?」
「ぜひに、一杯奢らせて欲しい、どうだろうかっ?」
なんか二人してグイグイくるな……。
「まあ、茶ぐらいなら」
自販機とかでもいいだろうし、それで引き下がってくれるなら別にいいか。
「やったー、じゃあ駅前の喫茶店ね!」
「は? え、自販機とかのお茶とかでいいだろ、そんな……」
「いやいや、それでは気が済まないんだ、頼むよ」
ぐっと顔を近づけてくる空、思わずドキッとして仕方なく従うことにした。
学園を出て喫茶店についた、道中知り合い、特に二学年の生徒には合わずに済んでほっとしている、この二人と一緒だと知られたら何をされるか分からないからな。
「いらっしゃいませー、三名様ですね、一番奥の席にどうぞー」
店員に指定された奥の席は密会をするにはおあつらえ向きの席だった。
密会ではないんだが、知ってる奴には見つかりたくなかった。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ミルクティー三つとアップルパイを三つ頼む」
「はい、少々お待ち下さいね」
手慣れた様子で注文をする空、いやというか待て。
「なんで勝手に頼むんだよ……俺は別にアップルパイとやらは必要なかったんだぞ?」
「ああ、ごめん、ついね、ここは行きつけで来た時は必ず頼むから」
「そーそー、それにここのミルクティーとアップルパイの組み合わせは最高だから、限くんもきっと気に入るよ」
「左様か」
別にいいけどな、俺も甘いのは好きな方だし、とは言え普通はコンビニスイーツぐらいしか食べないからこういうとこでのきちんとしたものはどうにも抵抗がある、というか女性客多くてちょっと落ち着かないわ。
「それでさ、ちょっと変な事聞くけどいい?」
少しもじもじした様子で話を切り出してくる空、こいつこういう顔も出来んだな。
「なんだよ」
努めてぶっきらぼうに尋ねる、真意は分からないが、嫌な予感がした。
「私たちってさ、ずっと昔にあったことないかな?」
「なんだそのナンパとかでありがちなセリフは?」
運命的な再開をした、みたいな感じに思ってるのかね?
俺は数秒も待たずに真顔でツッコミ返した。
「いや、なんていうかな、妙な親近感がわいててさ、それで実は昔馴染みだったりしないかな、ってね」
「あー分かるー限くんどっかであったことあるよね絶対」
「気のせいだろ」
「そーかなー……」
「そうだよ、学校はずっと同じだったしどっかで見かけたってだけじゃね? 今回同じクラスになるのは初めてだが」
そうなのである、全く接点こそなかったが俺はこいつらとは小中高とずっと一緒であった。
「え、そうなのか?」
「ああ、お前ら有名だしすごい目立つからな、一方的には知って居たさ」
あくまでも一方的にだ、こいつらに悟られるような真似は何もしていないしな。
「そうか、それだけだったのか」
「んーあたしはそうじゃない気がするけど……」
雷の方は食い下がろうとムムムと唸る。
「まあ、それに家も近いだろうしどっかであってるんじゃないか?」
「え? 家まで知ってるの?」
「当たり前だろう、あんな豪邸誰が住んでるかなんて近所の人間なら誰だって知ってるぞ。 ……少しは自分たちが有名だっていう自覚を持て。」
普通に接してはいるがこいつらは魔道士名家のお嬢様だ、近所はもちろん、学園の生徒の大半はどこに屋敷があるかぐらい耳にしているだろう。
「それは、そうだね、雷、蹴戸が困っているだろう? そのぐらいにしときなよ、そろそろパイが来るよ」
空が言うのと同じぐらいで店員がアップルパイ三切れとミルクティーを三杯トレイに乗せてやってきた。
「ではいただこうか」
「いっただきまーす」
「……いただきます」
フォークでパイの一画をサクリと欠いて、一口運ぶ。
ゆっくり咀嚼しながら甘味と林檎の酸味を味わう、次いでミルクティーを一口啜る。
「うまい……」
つい口から言葉が出た。
「でしょ~」
自慢気に言う雷、薦めてくるだけの事はあるな。
「気に入ってもらえて何よりだよ」
満面の笑みを浮かべる空、その顔を見たら女子だけでなく男子をも惚れさせてしまいそうだなと思う。実際全く人気がないという訳でもない様だしな。
「ごちそうさま」
「はやっ」
アップルパイを食べ終わると雷に驚かれた、男子の一口と女子の一口では食べる速度も違うらしく二人はまだ半分ほど残していた。
「ああ、つい……うまくてな。割と好きだぞこういうのは」
「それは何より、ここの払いはこちらでしておくので先に帰っても大丈夫だよ、私たちが食べてるのを見ていても暇だろう?」
「えーもう帰っちゃうの?」
「急ぎの用もないけどな、……ごちそうさま、美味しかったよ、また明日な」
こんなところ同じ学園の奴にでも見つかったら敵わないと俺は素早く、けれど失礼にならない程度に店を出た。