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物語の収集者  作者: 雛河翠月
8/10

ストーリアとストリーム

 お待ちかねのバイトの日(翌日)である。

 いつでも来ていいと言われたので、昨夜もらった書類をお供に夢乃書店にやってきたのであるが。

「あの、昨日と店の位置が変わってたんですけど」

 店の場所が変わっていた。昨日の場所で呆然としていたら、また狸が現れて道案内をしてくれたのだ。なんて賢い狸だ。

「この書店は限りなく世界の境界線に近いところにあるからね。現実世界の位置はブレるんだよ」

 理解した。理解できないことを理解した。

「この狸は道先案内人ってことですか」

 膝の上の狸を撫でながら尋ねる。可愛い。

「そうだよ。うちの店専属の案内人」

 彼方さんはさらに言葉を続ける。

「蛍くんが使ってる商店街入り口以外にも、いくつかの場所に繋がっていてね。お客様たちもこの子が案内してくれている」

 お客様、来るのか。そりゃあ、供給を作る理由は需要があるからに他ならない。昨日はちゃんと見ていなかったが、ここの棚に並んでいるのは全部、物語世界の本のようだった。棚の中身が普通の書店と一切被らない。

「さて、今日は物語の収集じゃなくて店番をお願いしたいんだよね」

 その言葉に衝撃を受ける。

「店番、ですか?」

 何もおかしな話ではないが、落胆は否めない。異世界冒険したかったなぁ。

「昨日の本をストーリアに持って行きたいんだよ」

 昨日の。燕の物語か。恐らく、18巻目。

「ストーリアっていうのはね、私の雇い主というか上司というか。物語世界から集めた物語を管理するところで、つまりは出版社兼印刷会社のようなものだ」

 分かるような、分からないような。微妙な顔をしているであろう俺に優しい眼差しを向けると、「今度連れて行ってあげるよ」と言われた。楽しみだ。

「店番って、どうすればいいんです? レジ打ちとかやったことないんですけど」

 なにせ初バイトだ。全く分からない。というわけで、レジで実演。

 使うのは店内で見つけた面白そうな本と、持ってきた書類を見て作った俺のストーリアの会員カード『ストリームカード』だ。給料振り込み用の書類が役に立った。クレジットカードみたいなものだが、ストリームの購入しか使えない。ストリームというのは、物語世界から作り出した物語のことらしい。ストーリー(物語)とドリーム(夢)を組み合わせた造語らしい。ストリームはストリームカードでしか購入できない。ストリームカードを作るには、管理組織ストーリアの認可が必要だということだ。俺は彼方さんに発行してもらった。

 普通の客も偶々、ストリームの書店にたどり着いて店長に発行してもらうのが殆どらしい。

「本のバーコードを読み込んで、カードを機械に通すだけ」

 コードリーダーはどこにでもあるのとさして変わらないように見えるが、ストリームについているコードは幾何学模様だ。バーコードでもなくQRコードでもなく、謎コード。

 カードの読み取り機械も普通のものと変わらないが、ストリームカード以外は使えないようになっているのだろう。

「常連さんは勝手を知ってるし、初来店客が来たらバイトの権限じゃ何もできないからお茶でも出してあげて」

 とだけ言って、彼方さんは出掛けて行った。

 初めての店番。何か起こるに違いない。

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