初めての境界超え2〜冒険小説〜
テクテクと、当て所もなく彷徨う。彼方さんの「そのうち会えるよ」という言葉を信じて。まあ、手がかりほぼゼロで立ち止まるのは性に合わない。読み進めれば、そのうち何かが見えてくるだろう。
「この世界って、どんな世界なんですか?」
が、暇なので聞く。
「ここはね、『冒険小説の世界』かな」
ああ、納得。其処彼処に洞窟やらがちらほら見えるのはその為か。
「ここって、精神世界、でしたよね? 誰の精神なんですか?」
屈強な大男か。はたまた、幼女か。
「それは、内緒。主人公に合えば分かるよ」
勿体振るなあ。
「この世界は作者が主人公タイプだから」
作者が主人公タイプ?
「作者が主人公でない場合もあるんですか?」
質問の最中も足を止めることはない。俺はガンガン読み進めるタイプだからな。
「うん、主人公に恋するメインヒロインとかね。あと、作者が出てこないタイプもあるよ」
へええ。
「精神世界なのに作者が出てこないんですか?」
それは精神世界ではないような。
「ああ、言い方が悪かったね。精神世界に限りなく近いけど、夢世界というか。空想の世界って言い方が一番近いかな」
つまりどういうことだ?
「普通の小説には作者は出てこないだろう? それと同じで秘めている物語は千差万別。一人の作者が複数シリーズ書くように、一人で数多の物語世界を持つものもいれば、一つも持たないものもいる。だからやっぱり、精神世界という言い方は正しくなくて、空想の物語の世界って感じ」
何となく分かった。そして気付く。
「そうか、異世界! これって異世界転生ですかね!?」
テンションマックスで彼方さんに問いかける。
「死んでないでしょ」
た、確かに。
「じゃあ、異世界召喚? も、違う気がするなあ」
召喚されずに勝手に遊びに来た感。
「そうか、異世界転移!」
これだ!
「それも違うよ。私たちの肉体はちゃんと元の世界にある」
だったら何だ? と考えたがうまい言葉が見つからない。唸っていると、ライオンが目の前を通り過ぎた。
「ああ、言い忘れてたけど、私たちのことは登場キャラ達からは認識されにくくなっている。だから、こちらから何かしなければ、まず襲われることはないよ。基本的にね」
こちらから何かしなければ、か。つまり、何かしたら襲われるわけだ。それと。
「基本的にってことは例外もあるってことですよね」
問いかけると、あっさりと答えが帰ってくる。
「私たち以外にも物語世界に入れるものはいる。他の読者には注意しなさい」
他の読者ねえ。注意しろってことは、問答無用で襲いかかってくる奴もいるのだろうか。
「ちなみに、この世界で怪我したり死んだりすると、どうなるんです?」
恐る恐る尋ねる。まだ、死にたくないんですけど。
「さっきも言ったけど、現実世界に肉体は置いてきているからね。怪我をしても帰れば治るし、死んでも現実世界に返されるだけだ」
死んだら強制送還か。ちなみに、腕を軽くつねってみる。痛い。うん、痛覚は機能するから怪我したら痛いみたいだな。死んだらもっと痛いだろうし、気をつけよう。
そんなこんなで、どれくらい歩いたか。不意に前方から話し声が聞こえた。
「さて、主人公達との対面だよ」