バイト探し その1
俺、坂井蛍樹が大学に入学して、半月が経とうとしていた。
もうすぐゴールデンウィークである。
休みに入る前にバイト先を探したいのだが、大学の近辺にはあまり店がない。駅の方に出れば簡単に見つかるんだろうけれど、大学から駅までは徒歩三十分かかるのだ。小さな駅なので時給も低そうだし。または、少し離れた大きな駅からは大学直通のバスも出ているのだが、家とは逆方向だし。大学まで徒歩一時間ってのは何かと不便だ。他に比べたら近くはあるのだが。
家の最寄り駅周辺で探すか? でも、あそこも寂れてんだよな。
自室のベッドに寝転んで、スマホで検索するが、どこもイマイチである。
そういえば、兄も同じ大学だったはずだ。どこでバイトしていたのか後で聞いてみるか。今日は何時に帰ってくるんだったか。
その時ちょうど階下から「ただいま」と兄の声がした。
急いで廊下に出て兄の部屋の前で待ち伏せする。
「優一、話があるんだけど」
階段を登ってきたところを捕まえて兄の部屋について入る。
「ただいま、蛍樹」
俺と兄の兄弟仲はかなりいいと思う。互いの部屋に勝手に入って小説や漫画を借りてるし、気になるゲームの情報は共有してるし。
「バイトの相談かい?」
着替え終わった兄と並んで腰を下ろす。
「なんでわかったんだ?」
たまにこういうことがあるのだ。なんでもお見通しというか。頭がいい、とも少し違うが、うーん、なんて言えばいいのか。
「ん? 時期的にそうかなって」
平然と言ってのける。いや、もうちょっとあるだろう。ゴールデンウィークどこか遊びに行こうとか。
「そうなんだよ。優一はどこでバイトしてたんだ?」
教えて教えて、と背中にのしかかる。
しばらく考え込んでいた優一が口を開こうとしたタイミングで部屋のドアが開け放たれた。
「ごっはんだよ〜」
妹の燕だった。長男に背後から抱きついている次男を見て固まったのちに、
「けーきちゃん、ゆーちゃんを困らせたらダメなんだよ?」
と謎のセリフを残して去っていった。
妹とも仲がいいのだが、最近思考回路が謎すぎて会話が噛み合わない。面白いので嫌いではないが。
「バイトの話は晩御飯の後にしよう」
そう言って、首に回った俺の手を優しく外す。
「約束だからな」