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ラウルside


 クジャール王国は大陸の端に位置する。自国では生産物や資源には恵まれていないもののアストラ王国との唯一の直接貿易点ということもあり、国には常に他の国の商人や文化が入り小国ながらも栄え、開放的な国であった。


 ラウルはクジャール国の王国騎士団の副団長を務めており、この日は休暇中の団長に変わり騎士団内の事務的な作業を行っていた。しばらくしてノックの音が聞こえたため作業を一旦中断する。


「どうぞ」

現れたのは守衛業務中の騎士団員だ。

「失礼いたします! 副団長、報告がございます! 王宮の庭に突然女性が現れたとのこと。不審な動きはしておりませんが、近くにいた団員で取り押さえております!」


「突然現れた?」

 小虫でもあるまいし、人が突然現れたということは魔法か何か使ったか。

 クジャールの民のほとんどは魔力を保有していないため、他の国から紛れ込んだ可能性が高い。


「わかった。すぐに行く。宰相へ早急に報告しろ」










 庭に着くと、四方から剣を向けられ座り込んでいる女性が見えた。何か喚いている。


「あのっ、私特別な力があると思うんですっ! 王子に合わせてください! あっ貴方は、ラウルですね! 貴方は親に愛されなかったことに深く傷ついてるんですよね。大丈夫、私が守ってあげます」


 特別な力?何を言っているんだこいつは。正式な手順も踏まず王子に会わせろなんて明らかにまともな奴が言うことじゃ無い。それに何故俺の名前を知っている。

 俺が孤児でありながら、王宮騎士団員になったのは周知の事実だが誰かに入れ知恵されたか。


「地下牢に入れとけ。不審な動きをするようなら拘束してかまわん」

 それだけ伝えると、ラウルはこの場から立ち去った。


 翌日団長に報告し、団長が尋問を執り行うこととなった。




 それからだった。王宮内がおかしくなり始めたのは。

 まず、団長が尋問を行った結果、彼女は不審人物では無いと判断を下したのだ。ラウルは最初から頭のいかれた奴だと思っていたため、この判断には納得いかず抗議したが団長は頑なに彼女はこの国に必要な人だとの一点張りだった。

 それにより地下牢から解放された女性は、宰相や王、王子と面会することになり、そこで彼女は天から贈られた聖女だと言う話になったらしい。


 また、王子が一目惚れをしたとかで元々いた婚約者とは婚約破棄し、彼女と婚約を結んだとか。


 王は、他国にまで聖女が現れたことを伝えはじめた。

元々貿易点であることを除けば、ただの小国であることは王の中で恥ずべきことだったのかもしれない。

 それが、我が国だけに特別に聖女が現れたとなれば他の国に価値を認めさせることができる。そう考えたのであろう。



 しかしそれから半年経っても聖女は一向に聖なる力を使わない。それだけにとどまらず、王子や王に取り入り贅沢を繰り返しているようだった。王妃は厳しく接していたようだが、それにより王の怒りを買い離宮に追いやられたとのことだった。



 おかしい。絶対におかしい。


 そう思ってはいてもラウルは王宮に近づくことができなくなっていた。そう、あの日聖女を即座に地下牢に入れたことで、ラウルは騎士団を離職させられたのだ。


 聖女がラウルが居るとこの国に災いが起こると予言したらしい。


 それを聞いた時、アホかと思った。何十年勤めてきたと思ってんだ。そう思ったが、団長もこの判断に賛成したようで結果は覆らなかった。

 部下の騎士団員は抗議し続けてくれていたようだが、団長よりも慕われており能力値も勝る副団長は目の上のたんこぶだったのだろう。

 通常王宮騎士団は、生まれが貴族であるものの中から選ばれることが多い。しかし、ラウルは孤児でありながらも優秀な頭脳と類い稀なる身体能力によって王宮騎士団員になったという、いわば憧れの英雄のような存在だった。

 有力貴族の息子というだけで団長になった奴とは違う。部下の誰しもが思っていることであった。



 王宮を去ったラウルは貯蓄を崩しながらしばらく家で過ごすこととした。しかし、今でも騎士団の部下達がラウルの家に集い、王宮の情報を持ってきてくれる。

 そんな折、今度はまた耳を疑うような事実が飛び込んできたのだ。

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