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「ふぁわ〜っ。いててて」
結局昨日は夜中まで魔鉱石削りに励んでしまった。
一度始めると時間を忘れて集中してしまうのが花の悩みだ。体の節々がギシギシと音を立てている。
ベッド横の窓から外を眺めると、雪は昨日の朝よりも溶けてきているようで、庭の畑の土が少し見えていた。
「これなら収穫できるかな」
凍えるような寒さの中、暖かい雪の下で熟成された野菜達はきっと美味しいに違いない。
日本にいた時も雪下にんじんといって、成長した人参を収穫せずに越冬させ、雪の下で甘くさせるといった手法があったが、この国の野菜もこれでうんと甘く濃い野菜にすることができる。
できれば今日は畑作業をしたかったが、国間の橋が壊されたということは、オイルショックのように皆必要品を買いに行く可能性が高い。
ローナは商人の中でもかなり優秀な部類に入るため、今回の情報をいち早く得ていたが、国民に知れ渡るのはもう少し先になるはず。
早いうちに買い出しに行っていた方が良いだろう。
外に出かけるのにザンバラな髪では恥ずかしいので高い位置でゆるめのお団子にすることにした。
水色の髪の毛は鮮やかすぎて最初はカツラみたいだと思ったが、この国にきて顔も何だか異国風になったので意外と違和感なく馴染んでいる。
ガウンを羽織りキッチンへ向かう。
この国はコーヒーや紅茶もあるが、コーヒーは丁寧に粉にされてはいないので豆を挽くしかないのが難点だ。
しかし、挽きたてのコーヒーは特別に美味しいのでそれもよしとする。
コンロは火が出てくるわけではなく、魔石によって板に熱が加わるといったIHのようなもので火加減の調整が出来ないので、鍋の位置を変えることで調整している。
電気、ガス、水道全て魔石を介して行われ、唯一変わっているところといえば、汚物処理用のスライムが下水を浄化してくれているところだろうか。
挽きたてのコーヒーからふわふわとのぼる湯気は、花を眠りに誘おうとしている。
二度寝しそうな自分を叱咤し、半月ぶりに街へと繰り出すことにした。