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カンカンカンカン
カンカンカンカンカンカン
呪いの藁人形をクギで打つような音が響いている。
カンカンカンカ
「あいてっ! んもーーーー!!!」
これは牛の鳴き声ではない。
結局あの後花の拒否は受理されず、やると言うまで両手を離してもらえず半ば強制的に膨大な量の仕事を任されることとなった。
そう、花の負けである。
「くそっ! あのにゃんこ!! プニプニのくせにどこにあんな力持ってやがった! ばか!」
言いたい放題である。
ローナが花にこの仕事を任せたのには理由があった。
アストラ王国では、国民のほとんどが魔力を保持している。しかし、魔力を意図的に使用できる者は少なく生活のほとんどは魔石を核とした魔道具に頼った生活となっている。
核となる魔石は魔鉱石を加工したものであり、この加工は魔力を自在に使える者しか行えないため誰にでもできる仕事ではない。そのため、魔力を使用することができ、かつ魔力量の多い花に白羽の矢がたったということだった。
「それもこれも、あのエセ聖女のせいだ……」
先程から文句ばっかり言っている花ではあるが、その間もしっかりと手は動いておりものすごいスピードで魔鉱石を削っている。
絶対に納期に間に合わせるといった、日本人根性もまたローナが花を頼りにしている点でもあった。
色とりどりの魔鉱石は大きな宝石のような、氷柱のような見た目をしており魔力を流しながら削らないと1mmも削れないらしい。
魔道具の大きさや形に合わせて、厚みや形を考えて削る作業は中々に大変だが、花はこういったチマチマとした仕事が好きだった。
日本にいた頃は、誰でも換えがきくような仕事しか任されなかった。資料のホッチキスを止めたりコピー用紙を補充したり。それはそれで周りまわって誰かの役には立っているとは思っていたが充実感は得られなかった。
「ふぅ……一回休憩しよう」
狭い作業場にはローナが持ってきた魔鉱石がたんまりと積んである。
やろうと思えば、2ヶ月くらいで仕上げられるが今回の仕事を受ける上でひとつだけ条件をつけ、納期を4ヶ月先にしてもらったので少し余裕がある。
本来仕事のベースは、雪溶けの時期に発注された商品を雪の間に仕上げ、それを次の雪溶け時期に納品するといった形だ。
なぜそうしているかというと、深い雪で閉ざされるこの国では、雪溶けの間に保存食をつくったり家のメンテナンスをするという大事な仕事があるからだった。
花も例外ではなく、魔法が使えるからといって何もないところに急に食べ物を出すことはできない。
同時進行で仕事を進めなければならないことを考えると少し憂鬱になるのだった。