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「……さん!ハナさーーーん!いますかーーーー??」


 誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。

 鏡に映る自分はまだ寝ぼけ眼で、グルグル巻きにしたマフラーに埋もれている。


 きっとこの高い声はローナさんだろうと思い、スピーカーに返答する。


「あっ、はーい! その声はローナさん?」


「はいはい、間違いなくローナです! 商人から配達人まで幅広く営業しております! 猫獣人のローナでございまっすよーん」


 久しぶりに聞いた楽しげな声は雪融けの季節が来たことを強く実感させ自然と笑顔になってしまう。


「相変わらずねローナさん! すぐに解除するからいつもの通りよろしく。解除できたら入ってきて!」

「はーい! お待ちしてまーす!」


 星型のスピーカーは真ん中の魔法石を核にしているとても便利な魔道具で、庭先の門についた同じ形のスピーカーと繋がっている。

 いくつでも連携することができるので、私は寝室とリビング、作業場とお風呂につけている。


 解除するのは、門に掛けている守護魔法だ。

 ここは森の奥だから、そうそう訪ねてくる人はいないけれど、あることが理由で守護魔法をかけることになってしまった。


 この魔法は特別で、生体反応を登録したもの同士が先ほどのスピーカーに手を合わせると結界が解除されるシステムになっている。


 星型のスピーカーに手を合わせ、許可印の文字が浮かび上がったことを確認し、急いで作業場に向かうことにした。


 雪が溶けたので今日くらいかと思ったけど、こんなに早い時間にくるとは思っていなかった。

 それだけポーション不足ということなのだろう。


 作業場は寝室をでてリビングに向かう廊下の途中にある。楕円形の木の扉を開けるとキィキィと蝶番の擦れる音がする。


 扉を開けると円形の部屋になっており、おとな5人で一杯になるくらいの狭い場所だが、壁はすべて棚になっており天井近くの棚まで全てポーションで埋め尽くされている。


 そのうち、雪溶け後に注文の入っていた回復用のポーション3種と咳止めや視力アップなどのポーションを配達用のコンテナに詰めていく。


 コンテナを積んだ台車をゴロゴロと押して、ローナさんが待っているだろうリビングに向かった。






「あっ! ハナさーん! お邪魔してますよーん!」


 勝手知ったるローナさんは家主のようにソファでお茶をすすりブンブンとこちらに手を振っている。

 ローナさんは先程自己紹介していたように、猫獣人の方である。このアストラ王国は、純粋な人族の他に獣人やドワーフ、エルフなど様々な生物が住んでいる。私は何故かこのことを理解していたが、実際に見たことはなかったようで、初めて獣人を見たときはすごい衝撃だった。着ぐるみのようなCGのような、とにかくとてつもない違和感は中々私の中でなくならないものだった。


 そんなローナさんとの付き合いも3年経てば何の違和感もない。なんなら雪溶けから次の積雪の時期までは頻回に会うので、このハツラツとした笑顔が見れない雪の季節はそれだけで寂しさを増幅させるような気がしていた。

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