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 花がこれまで開発に携わった魔道具にはスピーカーや火付け機などがある。

 スピーカーはドアインターホン、火付け機はチャッカマンから着想を得て作成した。


 魔道具開発をしたいなんて一度も思ったことは無かったが、ローナと商談をする中で何気ない一言が拾われ勝手に職人チームに引き込まれてしまったのだ。



 職人チームは、作成するものによって編成が変わる。

 ローナは魔石の調整やアイデアマンの役割をすることが多いため大抵チームメンバーに名前があがっていた。







「コタツ……いい案だと思ったけど、となるとアイツと間接的に関わらないといけないか〜」

 やっと叩き台となるミニチュアコタツが完成したはいいものの、先ほどから別のことで頭を抱えていた。


 花のいうアイツとは、鍛冶屋の息子のノクターである。

 この男のせいで家に結界を張るという暴挙に出なければなくなったのだ。


 ノクターはローナの取引先の鍛冶屋の息子である。顔自体はこぢんまりと整っているがひょろりと背が高く頼りなさげな男で、筋骨隆々のダンの息子とは思えなかった。


 実際に契約をしているのは父のダンであるが、魔道具を作る上で何度か家に招いたり鍛冶屋に行ったことがあり、その時にノクターとも知り合った。

 最初は普通に接していたノクターだったが徐々に身体に触ってくることが増え、妙に熱のこもった目でみてくることもあって気持ち悪さを感じていた。


 ローナもそのことに気付いていたようで、2人になる時間がないよう気を使ってくれていたが、ある日事件が起こったのだ。








 その日は特に仕事の用事は入っておらず家にいた。

 唐突にドアを叩く音が聞こえたため玄関に向かおうとした時妙に甘ったるい喋り方をするノクターの声が聞こえた。


「ハナ? いるんでしょ? 鍛冶屋のノクターだよ。ハナに渡したい物があって来たんだ。開けてくれる?」


 わずかに嫌な予感がしたものの、無視するわけにもいかず少しだけドアを開けた。


「何ですか?」


 ドアの隙間からはどす黒い色の花束を持ったノクターがにっこりと笑って立っているのが見える。その花の正体を知らなかった私は何で花束?と思いつつも、先ほどよりも大きく扉を開けた。


 その瞬間だった。風に煽られ黒い花が揺れた瞬間甘い匂いが鼻をつき身体中が燃えるように熱を持つ。


「なっ、何?」


 息を吸うのでさえしんどくて、はぁはぁと浅い息を繰り返し膝から崩れた花を見たノクターは一層笑みを深めた。  

「愛する僕のハナ。初めて見た時から美しい女性だと思っていたんだ。こんなに愛を伝えているのに、つれない態度を取るのはなんでだろうと考えていた。そこで気付いたんだよ。恥ずかしがり屋なんだって」


 胸に手を当て自己陶酔しきっている。

 ノクターは腰をかがめると崩れ落ちた花の耳元で言った。


「だから、恥ずかしがり屋のハナにプレゼントだ。女性はこの花の香りを嗅ぐと、男が欲しくてたまらなくなるんだって」








 こいつ、私を犯そうとしてる?


 その答えにたどり着いた瞬間、頭が燃えるように怒りがわいてきた。








 このバカ息子、1回ぶっ飛ばす。




 そう思った瞬間に、バカ息子もといノクターは花束ごと門の外まで吹っ飛ばされていた。


「へ?」

 流石に予想外で、間抜けな声が出る。




 そして、何故か門の前の道を砂埃を上げながら全速力で上がってくるローナが見えた。


「ハナさんっ! 大丈夫!?」


「わ、私は大丈夫……みたい?」


 そう言って完全に伸びているノクターに目をやった。


 ぜえぜえと息を切らし、家の前に着いたローナは花の目線の先に目を滑らせると、門の前で白目を向いているノクターを見つけ口をあんぐりと開けている。


「こ、これハナさんがやった?」




「……みたいです。」








 こうして、ノクターの強姦未遂事件は幕を閉じたのだった。


 後々ローナから聞いたことだが、ノクターはずっと花のことを狙っていたようで、それを気にしたダンさんは息子を見張っていたらしい。

 あの日、街でまじない師のもとを訪ねたノクターを見たダンさんは息子を問い詰めようとしていたみたいだが、隙をついて抜け出し逃げられたため、脚の速いローナに私を見にいくよう連絡したみたいだった。




 ローナは激怒し、ダンとの契約を破棄したとのことだったが、悪いのはバカ息子であってダンではない。

 成年した息子の尻拭いまでさせるのは可哀想で、花から契約はそのままで良いと伝えたのだ。


 ローナは納得いかないようであったが、ダンほどの鍛治職人は中々おらず、今後ノクターとハナを近づかせないことを条件に再契約した。



 その後は条件通り会うことは無かったが、何度思い出しても気持ち悪く腹が立つため、いっそのこと家ごと誰も入れないようにしようと思い結界を張ることになったのだった。









「まあ、仕方ない。また、頭イカレタことしてきたらぶっ飛ばせばいいだけだ」


 そう思い直すと、花は魔法で鳥を作りコタツの原画を咥えさせる。


 ふっと息を吐くと、作業部屋の窓から羽ばたいていった。







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