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 ラウルside


 俺は何をしようとしていたんだ。

 彼女の冷たく細い指の感触が残っている様な気がして、自身の左手を強く握った。

 これまで騎士団という肩書きに寄ってくる女は沢山いたが、誰とも本気の恋をしたことは無かったように思う。

 孤児で愛されたことの無い俺は、きっと誰も愛することができない。

 そうやって自分で自分に呪いをかけていたのだ。


 それくらい、孤児であったことはラウルの心に昏い根を張っていた。だからこそ、あのエセ聖女に言い当てられた時、どんなに強く賢くなろうとも付いて回る孤児の事実に無性に腹が立って仕方なかった。


 カイのことも長く旅をし同じ苦労をする中で、守ってやりたい、笑顔にしてやりたい、そう思う気持ちはあった。しかし、どのように接すれば笑顔になるのかが分からず泣きじゃくるカイをただ抱きしめることしかできないでいた。



 そんな中、何も持たない俺を1人の男として認めてくれたハナ。可憐な少女のような見た目でありながら、芯が強く、温かい母性のようなものを感じるハナ。

 料理がうまく、気が利き、思いやりに溢れ、破滅的に生き物を描くのが下手なハナ。

 こんな人が待っている家に帰りたい。

 たった1日しか一緒に居ないというのにラウルの心はハナに奪われていた。



 俺はこんなにも惹かれているというのに、なんの警戒心もなく触れるハナにもっと自身のことを意識して欲しくて、ほっそりとした手を握り引き寄せた。

 あわよくばその薄桃色のくちびるに触れてみたい、その思いはもう隠せなかった。



 ふ、と横に目を移すとキラキラとした目でこちらを見上げるカイと目があった。

「どうしててをつないでたの? なかよしだから?」


「仲良しになりたいと思ったからだ」


「ふうん。どうしておかおがあかかったの? どうして、僕がきたらてをつなぐのをやめたの?」

「カイ、お前分かっててきいてるんじゃないよな?」


 新聞記者なみの質問をしてくるカイに、ついそう聞いてしまった。まだまだ質問したそうなカイの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

「よし、もう質問は終わりだ。ハナから畑の野菜を獲る任務をもらった。カイ団員、協力を要請する」


 あえて、騎士団にいた時のように背筋を伸ばし敬礼をした。カイは王宮騎士団に憧れていたらしく、任務を貰えたのが嬉しかったのだろう。ビシッと敬礼すると、大きな声で「やります!」と答え走り抜けていった。



 その後ろ姿はクジャールを出たときより、確実に大きくなっており眩しく感じる。


 人を愛する気持ちはこんな気持ちなのかもしれないなと思うのであった。



















 花side


 作業場の床に転がっている魔鉱石は大小様々で、色も多様だ。

 宝石のシトリンのような黄色い魔鉱石はスピーカーのような通信機器に適しており、ガーネットの様な深い赤色の魔鉱石は魔道コンロや火付け機のような熱伝導を高める必要のあるものに向いている。


 今回は、既存の魔道具の他に新しい魔道具の開発も依頼されているためいくつか案を書いていく。


 この国は年がら年中気温が低いため、暖房機器が欠かせない。日本のように家づくりの技術が発展していれば窓を二重にしたり、温熱効果のある素材で家を作れただろうが、この世界はそこまでの発展はない。


 魔道具は使う魔石のサイズが大きくなったり、より複雑なものになると急に値段が跳ね上がる。

 そのため部屋全体を温めるような暖房のようなものは作っても買い手が少なくなる。

 一部の金持ちには需要があるかもしれないが、大多数の国民は生活に必要な最低限の魔道具を買うにとどまるため、もっと手軽なものが欲しかった。



「冬、寒い、手軽、魔石が小さくてすむ単純な……」



 ハッと閃いた。


「コタツだ!」



 なんで今まで思いつかなかったのだろう。

 この世界は洋作りの物が多い。そのため、純日本的なコタツというのが思いつかなかったのかもしれない。



 猛スピードで原案を仕上げていくと、早速試供品づくりに取り掛かるのだった。


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