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「こらっ! 待てっ、カイ!」
ガチャっとドアの開く音がした後にドタドタと何かが走ってくる音がする。
「んっ? なに?」
丁度ミルクスープの味見をしていた花は、お玉を持ったままキッチンを出てお風呂場へと繋がる廊下を見た。
すると、パンツ一丁でカイが走り抜けてくるのが見えた。
その後、カイを捕まえようとしたのか半裸のラウルも出てきた。
「うぉっ、すまない!」
まさか花が覗いていると思わなかったのだろう。慌ててお風呂場に戻って行った。
ふむ。めちゃくちゃ筋肉すごかった。
一瞬だったが、非常にいい身体だったのが分かり頬が火照る。
誤魔化すかのように、カイを捕まえ抱き上げた。
「カーイーくーん? まだびちょびょじゃない。ご飯はしっかり服を着て髪が乾いてる人しか食べられないよー?」
わざと怖い顔をして伝える花を見て、へにょんと眉を下げたカイはご飯が食べられないのは嫌だと思ったのか、また凄い勢いでお風呂場に戻って行った。
そうこうしているうちに、料理のほとんどが出来上がった。リビングにある大きな一枚木でできたテーブルは、歪な形をしているが、それがまた温かみがあって花のお気に入りだった。
そこに、マットとコースターなどを並べていく。今日も冷えるので、大人の飲み物には少しお酒を入れてある。
ゆったりとした服に身を包んだラウルは先程の冒険者のような服では分からなかった逞しさが伝わってくる。
長袖をまくった時の腕の筋や、がっしりとした背中に目がいってしまうのは許してほしい。
「ハナ、風呂ありがとう。何か手伝えることはあるか?」
そう言って、キッチンを覗いてくれた。
「いえいえ、もうあと鶏肉を取り出せば終わりなので座っててください」
料理窯の中では丸ごと焼かれた鳥が美味しそうにパチパチと音を立てている。
「じゃあ、取り出すのは俺がやろう。火傷でもしたら大変だ」
そう言って、花の持っていたパドルをとると手慣れた手つきで取り出し、皿にのせてくれた。
「ありがとうございますっ。……ふふっ、なんかラウルさんお父さんみたいですね」
そういうと、ラウルはポリポリと頬を掻き困った顔を浮かべた。
「まあな。年齢で言うとそんなもんだろう。ハナはまだ成年してないだろう?」
「失礼な!しっかりちょっきり成年してますよ!」
この国では18歳が成年とみなされる。正直目を開けた時からこの身体だったので一体何歳なのかは不明だが、身体付きからすると流石に未成年ではないだろうと考えていた。
それに日本にいた時は26歳だったので、今更未成年と言われてもキツいものがある。
すると、ラウルは驚いたように目を見開いた。
「そうなのか?いや、顔が、その幼げな顔だったからまだ成年してないと思っていた。すまんな」
何だか顔を赤らめているが、まあ若く見えたということで許してやろう。
「じゃあ、気を取り直して食べましょう!」
テーブルに並んだ料理を見てカイは目がとろけている。
ラウルもまた、久しぶりの温かい食事に腹の虫が鳴るのを抑えられないようだった。
「少し作りすぎましたけど、食べきれなかったら遠慮なく残してくださいね。味が合わなかったら教えてくださいね」
そう言うや否や、2人とも凄い速さで料理に手をつけ始めた。2人は口に入れた瞬間目を見開くと、バクバクと無言で食べている。その様子を見て、口に合わないことは無さそうだと笑顔がこぼれる。鶏肉を崩してカイに取り分けると、花も食べ始めた。
ふむ、中々上出来じゃないか。
こうして、大量に作ったはずの料理は全て跡形もなくなった。
カイは最後らへんになるとうつらうつらと、船を漕ぎ始め食べたい気持ちと眠たさとで揺れているようだ。
「カイ君、先に寝かしちゃいましょうか?」
今にもテーブルに頭がつきそうで心配になる。
「そうだな。今日は久しぶりに泣いたり笑ったりして疲れたのかもしれない。クジャールを出て、こんなふうに感情を表に出す姿をみることはなかったから。本当にハナには感謝している」
そう言うと、姿勢を正し頭を下げた。
慌てて頭を上げさせる。
「とんでもないです。私は一人でこの家に住んでいて、寂しいと思うこともあったんですけど、二人と話したり食事をしたりできてとても幸せな気持ちになりました。こちらこそありがとうございます」
そう言うとラウルは照れたように笑った。
「カイを寝かしてくる」
カイは最後までスプーンを離そうとはしなかったが、眠気には勝てなかったようだった。




